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付加金とは?労働審判までに解決しやすい残業代請求では発生しにくい

更新日:2019年05月14日
付加金とは?労働審判までに解決しやすい残業代請求では発生しにくいのアイキャッチ


今日も残業…明日も残業…、永遠に続く残業地獄…。
いくら働けど、残業代が全く出ない!!どうなってるんだ!?

こんな空しいことはないですよね…。
こんなに腹立だしいことはないですよね…。

やられた分はやり返したくありませんか?
この空しく腹立だしい思いも込めた残業代の倍返しをしたくありませんか?

実は、残業代にも倍返しする方法があります。その方法が「付加金請求」というものです。
今回は、そのことについて説明していきます。

付加金とは

「付加金請求」という言葉はあまり聞き慣れないかと思います。訴訟(裁判所に訴えて、権利・義務の法律的確定を求めること)で残業代を請求する場合、残業代に加えて「付加金」という金銭の支払いも請求出来る場合があります。

付加金と労働基準法

付加金については、労働基準法で以下のように規定されています。

③裁判所は①第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により②使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、④この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。(労働基準法第114条)

上記の労働基準法114条に明記されている①~④を掘り下げながら、付加金がどのようなものなのかを深掘りしていきたいと思います。

①付加金が命じられるケース

 まず、「①第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかつた使用者」についてご説明させていただきます。
労働基準法20・26・37条、39条第6項ではどのような内容が規定されているのかをそれぞれ見ていきましょう。

■労働基準法20条
 会社は労働者を解雇する場合、30日前に予告をしなければならない。30日前の予告をしない使用者は、30日以上分の賃金を支払わなければならない。

■労働基準法26条
 会社の一方的な理由で休業を余儀なくされた場合、会社は労働者に対し休業期間中の賃金の60%以上の手当を支払わなければならない。

■労働基準法37条
 会社が労働者に対し所定労働時間を超えた労働をさせた場合や、所定休日に労働をさせた場合、通常賃金の25%割増の賃金を支払わなければならない。
 また、会社が労働者に対し22~翌5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域または期間については23~翌6時)に労働をさせた場合は、25%割増の賃金を支払わなければならない。

■労働基準法第39条6項
 労働者が有給休暇を取得した際、会社は平均賃金か所定労働時間分の賃金のどちらかを支払われなければならない。

つまり、上記に違法性がある会社に付加金の支払いを命じられる可能性がある、ということが分かります。

②付加金の請求額

 続いて「②使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる」を見ていきましょう。
②は、残業代請求額は付加金が加わることによって2倍になる可能性があることを意味します。付加金には、サービス残業をさせた会社に対するペナルティーという意味合いがあります。

また付加金制度には、金銭的な制裁を加えられる可能性があるという威嚇を与えることによって、割増賃金の未払いを防止して労働者を保護するという狙いも含まれています。

③付加金を命じることが出来るのは裁判所のみ

 次いで「③裁判所は」について見ていきます。実は、この「裁判所は」が付加金のポイントになっているのです。
 それは、付加金が発生するかどうかの判断は裁判所の判断に委ねられているということを明示しています。そのため、①の内容に違法性が見られたとしても必ず付加金が発生するとは言えないのです。
 全ては裁判所次第なのです。

④除斥期間

 最後に、「④この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない」について説明をしていきます。
付加金は違反のあった時から2年以内に請求しなければならないとされています。これを、除斥(じょせき)期間といいます。

・除斥期間とは
法律関係を速やかに確定させるため、一定期間の経過によって権利を消滅させる制度

この除斥期間は、時効のように中断がなく、違反があった時から2年が経過すると自動的に請求が出来なくなってしまうのがポイントです。

付加金請求が命じられるケースが少ない理由

 未払い残業代請求においては付加金が命じられるケースが少ないです。というのも、下記4つの理由が考えられるためです。


①任意交渉や労働審判で解決するケースが多いため
②訴訟で確定判決を得られるケースが少ないため
③裁判所に付加金を命じる義務はないため
④第三審までに未払い金が清算されれば付加金の請求は命じられないため

 1つずつ見ていきましょう。

【理由①】任意交渉や労働審判で解決するケースが多いため

 未払い残業代請求の解決方法は、一般的には「任意交渉→労働審判→訴訟」の順に進められます。

■任意交渉
 任意交渉とは内容証明郵便を発送し、会社に残業代の支払いを求める行為のことをいいます。

※内容証明郵便は、「誰が、誰宛に、いつ、どんな内容の書類を出したのか」ということを郵便局が公的証明する郵便です。郵便局が「書類を出した事実、書類を出した日付、書類の内容」を証明してくれます。

■労働審判
労働審判は、裁判所の行う紛争解決手続の一つです。解雇や残業代請求等の労働紛争について、裁判官1名と労働関係の専門的知識と経験を持っている労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で事件を審理し、調停を試み、または審判を行う制度です。換言すると3回以内の期日で、両当事者から直接、自由に事情を聞いて、和解(金銭的解決)を目指す手続です。

■訴訟
 労働審判で解決しない場合は訴訟を起こすケースがあります。訴訟とは、裁判所に訴えて、権利や義務の法律的確定を求めることをいいます。

任意交渉・労働審判・訴訟のうち裁判所を利用するのは訴訟のみです。付加金を命じることが出来るのは裁判所なので、訴訟でない限り付加金が発生する可能性はないのです。
とかく、未払い残業代問題は訴訟まで発展するケースは少なく、任意交渉や労働審判の段階で会社が未払い賃金の請求に応じるケースが多いです。
そのため付加金は発生しない可能性が高いのです。

【理由②】訴訟で確定判決を得られるケースが少ないため

 付加金を得るためには、実は訴訟を起こすだけでは付加金は得られません。訴訟で裁判所から勝訴判決を得なければならないのです。
 しかし、労働問題の多くは和解になるケースが多いのです。

・勝訴判決とは
 未払い残業代問題においては「被告(会社)は原告(労働者)に対し、150万円およびこれに対する平成〇〇年△月○日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。」といったように、裁判官が会社に未払い賃金を支払うように言い渡す判決のことをいいます。

・和解とは
 裁判では裁判所からの尋問手続も終わると、残りは判決のみになります。裁判所は判決を言い渡すまえに、双方の合意で問題を解決するような提案を持ち込むのが一般的な流れです。「双方の合意によって問題を解決する」、これが和解なのです。

訴訟に対しどの程度の割合で判決に至るのかが分かるデータを見てみましょう。

【労働事件の訴訟件数と判決が出た件数の割合】

年度 訴訟件数 判決 割合
平成23年度 1975 609 31%
平成24年度 2119 626 29%
平成25年度 2053 668 33%
平成26年度 2132 655 31%
平成27年度 2298 664 29%

引用元:https://zangyohiroba.com/overtime/addition-money.html
 
 上記は未払い残業代のデータではありませんが、労働問題の訴訟件数に対して判決に至る割合はおおよそ30%です。労働問題に分類される未払い残業代請求も和解の傾向にあることが想定出来るのではないでしょうか。

【理由③】裁判所に付加金を命じる義務はないため

 判決に至ったとしても、裁判所に付加金を命じる義務はありません。というのも、法律上は「付加金の支払を命じることが出来る」に留まっているためです。
 付加金が命じられるかどうかは裁判所の裁量に委ねられているのです。

 では、裁判所はどのような基準で付加金の支払いを命じているのでしょうか。裁判所は、「悪質であるかどうか」を基準に判断しています。
例えば、次のような場合に裁判所は「悪質である」と判断する可能性があります。

・労働時間の把握を全く行っておらず、支払わなければならない残業代の算出が不可能
・タイムカードや雇用契約書等、残業代の算出に必要な資料を開示しない
・正当な残業代請求に対して、過剰に否定的な態度をとる
・労働者側からの請求に対して交渉に応じず、誠実な態度を示さない

 例を見る限り、不誠実な対応をする会社を「悪質である」と判断する傾向にあります。

【理由④】第三審までに未払い金が清算されれば付加金の請求は命じられないため

 日本では正しい裁判を実現するために三審制度が採られています。
 三審制度とは、第一審、第二審、第三審といったように3つの審級の裁判所を設けて、当事者が希望をすれば、3回まで審理(裁判官等が取り調べを行って)を受けられる制度のことをいいます。

 そのため、第一審で付加金を命じられたとしても、第二審で命じられなければ、付加金は発生しません。
例えば、第一審で付加金の支払いを命じられた会社が第二審を希望し、そこで未払い残業代の支払いに応じる和解に持ち込めば、付加金は支払われません。

遅延損害金も請求出来る

 また、未払い残業代請求では付加金と併せて年利6%の遅延損害金を請求することも可能です。詳しくは下記の記事をご覧ください。

残業代請求の準備について

付加金の請求をするためには、まず残業代の請求が必要であり、残業代の請求をするためには自分で残業をした証拠を集める必要があります。詳しく説明した記事があるので、こちらもご確認ください。

付加金請求が認められたケース

ここで、実際に付加金請求が認められたケースを紹介します。こちらを見ると未払い額と同額の付加金が認められ、残業代請求額が2倍になる場合や、一部だけ認められる場合など様々なケースがあることが分かります。

①未払い金と同額の支払いを認めたケース


【平成25年2月28日東京地裁判決】
「裁判所は、諸般の事情を考慮して、付加金の支払いを命じることが不相当であるとして、支払いを命じないことができるが、支払いを命じる場合には、特別の事情が認められない限り、未払い金と同額の支払いを命じる」

としてうえで、


「会社は合理的な理由もなく割増賃金を一切支払っていないのであるから付加金の支払いを命じることが不相当である場合にも当たらないし、付加金の額を減額すべき特別の事情もない」

として、未払い額と同額の付加金の支払いを命じました。

②一部について付加金に支払いを認めたケース


【平成21年12月25日東京地裁判決】
「裁判所は法律違反の理由や程度等を総合的に考慮して、支払いを命じるかどうが、支払いを命じる場合には、いくらの金額の支払いを命じるかを決定すべきである」

としたうえで

「支払い義務の有無について争ってきた会社の態度(注 管理監督者に当たるという主張や、超過勤務手当の基礎となる金額に含めるべき手当の範囲について争ってきました)がことさらに悪質なものであったとは認められない」

として、未払い額の30%の限度で付加金の支払いを命じています。

弁護士に付加金請求について相談する

このように付加金請求が認められるケースは多々あります。もし、これを見て付加金を含めた残業代の請求を考えているなら、まず法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士なら残業代の計算から請求の手続まで、その人にあった的確なアドバイスをしてくれるでしょう。

また、すでに述べたように、付加金には除斥期間があるので早めに行動することをお勧めします。

まとめ

付加金請求が認められれば残業代の倍返しは不可能ではありません。もし未払いの残業代がありそうな方は、付加金のことも踏まえて残業代の請求を考えてみてもいいかもしれません。

そのためには、まず自分がどれくらいの残業をしていて、どれだけの残業代が発生しているのか把握した方がよいです。こちらで、そのことについて説明しているのでぜひご覧になってください。

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残業代請求弁護士ガイド 編集部

残業代請求に関する記事を専門家と連携しながら執筆中 ぜひ残業代請求の参考にしてみてください。 悩んでいる方は一度弁護士に直接相談することをおすすめします。 今後も残業代請求に関する情報を発信して参ります。

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