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SEの残業代が出なくなる「裁量労働制」というトリックのアイキャッチ

SEの残業代が出なくなる「裁量労働制」というトリック

SEの残業代が出なくなる「裁量労働制」というトリックのアイキャッチ

 2011年に、某IT企業のSEの男性社員が自殺した事件が話題となりました。この男性の自殺原因は「長時間労働によるうつ病」と判明し、“SEは残業が多い"というイメージを印象づけた事件でした。

・SEとは
システムエンジニアの略称で、「クライアントの要求を実現するシステムを作る」仕事です。クライアントの要望をヒヤリングし、コンピュータを使って希望を叶えていきます。

 SEが働く会社は、SEの残業代を抑えるための「裁量労働制」を採り入れながら、某IT企業のように、長時間労働を強いている傾向があるのです。

今回はIT企業で働くSEにスポットを当て、“なぜ残業が多いのか"にも触れながら、裁量労働制についてご説明させていただきます。

SEの残業が多い理由

 2015年に厚生労働省が公表した「賃金構造基本統計調査」によると、東京都で働くSEの月間平均残業時間は23時間です。全業種の平均残業時間が10時間のため、SEの月間残業は多いと言えます。

 とはいえ、この調査は雇用主による報告を基にデータ化したものであるため、会社側で把握していない残業時間等は含まれていません。そのため実際の残業時間は、この調査データより多少は多いと予想されます。
 一方で、大手転職サイトに載っている「235人のSEに聞いた1ヶ月の残業時間」アンケートを見ると、以下のように結果が出ています。

1ヶ月の残業代 割合
残業なし 6.4%
20時間未満 28.9%
20~40時間 34.5%
40~60時間 15.7%
60~80時間 6.0%
80時間以上 8.5%

 20~40時間が最も多いものの、月60時間以上もの残業をしているSEが約15%もいるのです。

 ではなぜ、SEは残業が多いのでしょうか。それはSEの“特殊な業務内容"が大きく関係しています。

理由➀クライアントの要望がダイレクトに影響するため

システムを設計するためには、クライアントとの度重なる打ち合わせが必要となります。要望が二転三転するようなクライアントであれば、その負担はダイレクトにSEに降りかかるのです。

理由②業務が多岐に渡るため

 SEの業務はシステム設計だけではありません。システム要件のヒヤリングをするためにクライアント先に出向かなければならないのです。さらには、営業マンと同様、全国を飛び回ります。そこでシステムのプレゼンをすることさえあるのです。
 
 以上のことから、SEは製品の開発だけでなく納品が完了するまで責任を持って担当しなければなりません。そのため必然的に、SEの残業時間は他業種に比べ多くなってしまうのです。

全てのSEの残業が多いとは限らない

 しかし、SEは誰もが残業が多いのでしょうか。前項のアンケートでもあるように、残業が全くないと回答したSEもいれば、月80時間以上もの残業をしている方もいます。一体この差はどこから来るのでしょうか。
実はこの差、働き方によって違ってくるのです。その業務内容は、大きく分けて3タイプあります。

➀請負開発をする現場のSE

 請負開発をメインとしている企業の場合は、複数の案件を受注することで売り上げが伸びていきます。そのため売り上げを伸ばすために、現場で働くSEの負担は大きくなりがちです。

 さらに、主導権がクライアントにあるため、納期等のスケジュールを発注元に合わせなければいけません。このことにより、納期前は深夜まで残業する等が往々にしてあります。

②発注する側の大手企業のSE

 発注をする側の大手企業は定時もしくは平均より少ない残業時間で済むことが多いです。これはスケジュール管理等の主導権がシステムを作る発注側のSEにあるため、無理な残業をするほどの予定を自ら課すことがない、ということが背景にあります。

③社内SE

 社内SEとは、企業内の情報システムの企画・管理・運用を担当するために雇われたSEのことを指します。
 スケジュールも社内SEを中心に計画するため、もちろん無理なスケジュールによる開発は行いません。そのため、残業は少ない傾向にあります。

 以上のように、働き方によって残業時間に差が出るのです。
ここで注目すべきは、「➀請負開発をする現場のSE」でしょう。請負開発をメインとしている企業は、SEの稼働時間に比例して売り上げが伸びるという特性があるため、出来るだけ残業代を抑えたいという会社の思惑があります。

 そこで、採用するのが「裁量労働制」という勤務形態なのです。

裁量労働制とは

裁量労働制とは、時間で賃金を決めることに馴染まない労働者に対し、実働時間に関わらず「労使協定(労働者と会社の間で取り決めした内容を書面化したもの)を結んで合意した時間数(所定労働時間)を1日の労働時間とみなす」制度です。

 この裁量労働制は、業務の特徴によって3つに分類されます。

➀事業場外みなし労働制

事業場外みなし労働時間制は、直行直帰する営業職や、出張等の臨時の事業場外労働のように、会社からの監視が難しい社外勤務の労働者に適用されます。

→事業場外みなし労働制はこちらで詳しく説明をしています。

②企画業務型裁量労働制

 企画業務型裁量労働制は、企業の中核を担う部門で企画立案等を自主的に行う労働者に対して適用される制度です。

③専門業務型裁量労働制

 業務の特性上、労働者の裁量に委ねる部分が多い職種に対して適用されるのが、専門業務型裁量労働制です。
 SEに裁量労働制を採用する場合は、この専門業務型裁量労働制が該当します。

専門業務型裁量労働制の適用条件

 専門業務型裁量労働制を適用することが出来る職種は、労働基準法施行規則22条にて以下のように規定があります。

⒈ 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務
⒊ 新聞若しくは出版における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法の制作のための取材若しくは編集の業務
⒋ 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
⒌ 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(以下略)

SEは、この中の2「情報処理システムの分析又は設計の業務」に該当します。
 しかし、「情報処理システムの分析又は設計の業務」については以下のように指定があるのです。

⒈ ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定
⒉ 入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等
⒊ システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること、プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること

 つまり「情報処理システムの分析又は設計の業務」に基づくと、全てSEに「専門業務型裁量労働制」が適用されるとは限らないということです。

全てのSEが専門業務型裁量労働制には該当しない

 SEの業務を下記図のようにフェーズ毎に分けることで、全てのSEに「専門業務型裁量労働制」が該当しないことが明確になります。

順番 開発フェーズ 内容 担当 工程
1 要求分析 どういったシステムが希望なのかクライアントに聞く SE 上流工程
2 要求定義 要求されたものを分析し内容をまとめる
3 基本設計 システムを何で構成するか決める
4 詳細設計 プログラミングをするための細かな設計を行う
5 プログラミング プログラミングしてプログラムを作成する プログラマー 下流工程
6 単体テスト プログラムが単体で動作するかどうかテストを行う
7 結合テスト 複数のプログラミングの動作確認かテストを行う SE
8 システム または 総合テスト 本番さながらの全てのシステムを動作させたテストを行う
9 運用テスト 本番稼働前に顧客に使ってもらい最終チェックを行う
10 本番稼働 システムが実際に動き出す カットオーバー

 前項で触れた「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは図で言っている1~9(5,6を除く)を行っているSEでなければ、専門業務型裁量労働制は適用しないということになります。

 特に請負開発を行う現場で働くSEの場合は、1~4の工程は担当していないというケースが多いです。その場合は「情報処理システムの分析又は設計の業務」には該当しないため、専門業務型裁量労働制は不適用になります。

プログラマーは「裁量労働制」の対象ではない

 さらに、よくSEと混同されがちな職種であるプログラマーについてもご説明させていただきます。
プログラマーは、SEが詳細設計をした仕様書を基にプログラミングを進めていきます。そのため前項の図の通り、プログラマーの業務は5,6のみです。

 近年では、プログラマーの業務を兼任するSEもいるため混同しがちですが、プログラマーは専門業務型裁量労働制の対象にはなりません。

SEの残業代請求が認められた裁判

過去には以下のような裁判があり、全てのSEに対し裁量労働制は該当しないということが明確になりました。

エーディーディー事件(京都地方裁判所平成23年10月31日判決)
 プログラミングについては、その性質上、裁判性の高い業務ではないので、専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解される。営業が専門業務型裁量労働制に含まれないことはもちろんである。(中略)

 本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは、システム設計というものが、システム全体を設計する技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに、A社は、下請けであるXに対し、システム設計の一部しか発注していないのであり、しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると、下請にて業務に従事する者にとっては、裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということが出来る。

 この「エーディーディー事件」では、請負開発を担っているA社で働くSEが、退職後に「システム設計の一部しか担当していないから裁量性がない」として裁量労働制が適用されないことを主張しました。1600万円の未払い残業代を請求し、退職後にも関わらずそのうち1000万円以上の残業代が認められたのです。

残業代の請求について

 これまでの解説で、ご自身がプログラマーであったり、裁量性がないSEの場合は、まずは上司に相談をし、裁量労働制の見直しを図ってもらいましょう。もし、それでも動いてもらえない場合は、労働基準監督署に一度相談をしてみてください。

→労働基準監督署についてはこちらで詳しく説明をしています。

また、裁量労働制は該当するが、あまりにもみなし労働時間と実労働時間に差がある場合はこちらの記事「負けるな!「みなし残業」制度を理解して会社の誤魔化しを見抜こう!」を参考にし、残業代の請求を考えてみてください。

さらに、残業代請求を考えるのであればまずこちらの記事「会社と荒波を立てずに請求する方法」を読んでみましょう。残業代請求に向けてするべきことが理解出来ます。

まとめ

 裁量労働制は、全てのSEに該当しないトリックであることがお分かりいただけましたでしょうか。特に、請負開発をメインとしている会社で働くSEの方は注意が必要でしょう。

もし裁量労働制が該当しない場合は、上司や労働基準監督署に相談する等のアクションを起こしてみましょう。また、該当はするものの、残業が多いという方は残業代請求を考えてみてください。

本記事がきっかけに、SEの方が「裁量労働制」というトリックを解けたなら幸いです。

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