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塾講師のサービス残業が労働時間に該当するケースとはのアイキャッチ

塾講師のサービス残業が労働時間に該当するケースとは

塾講師のサービス残業が労働時間に該当するケースとはのアイキャッチ

2017年、東京都世田谷区の小学校教員の残業が多いことがニュースになったように 、教育業界は過重労働が問題になっています。この問題は、塾の講師も例外ではありません。
 本記事では、残業が多い塾講師についてお伝えさせていただきます。

塾講師の残業が多い理由

 塾講師は主に以下の2つが原因で残業が多くなっています。

①授業以外の業務が多い

 塾講師の始業時間は13時が一般的です。終業時間は22時頃ですが、定時で帰宅出来ることはほとんどありません。
 塾講師は授業と並行して、教材の作成やテスト採点、生徒からの質問対応等、多くの業務をこなす必要があります。

また、受験シーズンになれば、試験会場に応援に行くなどの業務も発生します。
 本来、授業をするのが塾講師の役割であるものの、授業外の業務もこなしていく必要があることから、早めに出勤して作業をしたり定時を過ぎて残業したり等、長時間労働を避けることが難しいのです。

②休日出勤が多い

 塾講師は、平日・土日問わず仕事があります。
 平日は学校終わりの学生を対象に授業を行います。土日は授業がない日でも自習室を開放するため出勤しなければなりません。そのため、休みが週1日になることも珍しくないのです。
 そんな貴重な休日も、生徒や保護者との面談、研修等に費やすことも少なくありません。

少子化が招いた長時間労働

 ではなぜ、 塾講師はこのような長時間労働を強いられているのでしょうか。これには少子化が影響しています。
 塾に通う生徒の数は、少子化の影響により減少傾向にあります。そのため、塾側は少しでも生徒を獲得しようと様々な施策を行っています。

 一人ひとりの生徒に合った個別指導を行う塾もあれば、生徒を最寄り駅まで送迎する塾さえあります。このことにより、講師の負担はさらに増え長時間労働が助長されているのです。

塾業界の“よくない慣習”

 長時間労働が蔓延した塾業界では、次の“よくない慣習”により、講師がサービス残業を強いられるようになりました。

①サービス残業と人件費削減

少子化が招いた競争激化により、塾は多くの生徒を獲得するために、受講料を安く設定せざるを得ません。そのしわ寄せは、「講師のサービス残業」というかたちで、人件費を削減するようになりました。

②しっかりされていない労働時間の管理

 労働時間の管理がしっかりされていないこともサービス残業が増えている原因です。
 いくつもの校舎をかかえる中規模以上の学習塾では正社員の講師を各校舎に配置し運営を任せます。本部(本社)側は、その講師の労働時間をしっかり管理していない傾向にあるのです。
例えば、別の校舎で授業した時間や、本部に教材や書類を取りに行った時間、本部で会議や研修に出席した時間が管理されていないといったケースが挙げられます。

③曖昧な残業の定義

 労働時間がしっかり管理されていないのは 、塾業界で残業の定義が曖昧になっていることが大きく起因 しているためでしょう 。
よくある残業のケースとして、生徒からの質問・相談対応が挙げられます。
しかし、この残業は生徒の熱意と講師の善意によるものと見なされ、労働時間と見なされないことが多々あるのです。

とはいえ、労働時間には明確な定義があります。

労働時間の定義とは

電卓

労働基準法32条では「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」を労働時間と定める、といった内容が記述されています。
要するに、「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている」かどうかが労働時間の判断基準とされているのです。

「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」とは

 では、「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」とは、どのような時間を指すのでしょうか。
以下の判例を基に解説をしていきます。

三菱重工長崎造船所事件(平成12年3月9日)最一小判

労働時間とは労働者が指揮命令下に置かれている時間をいい、客観的に判断する。
そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段のない限り使用者の指揮命令下に置かれたものと評価出来る。

 この判例は、作業に入る前の「着替え・散水の時間が労働時間に当たるかどうか」が争われた問題でした。塾講師の残業とは異なりますが、労働時間に該当するかどうかの判断基準となる判例です。

 この判例を分かりやすく噛み砕くと、以下のようになります。

作業に入る前の着替え・散水を社内で行うように、会社から命令された場合や社内でせざるを得ない場合は、特別な事情がない限り会社の指揮命令下に置かれたものとして扱う。
この行為が所定労働時間外で行うものとされている場合であっても同じである。

 結果、この判例では、着替え・散水の時間が労働時間として認められました。
 労働時間かどうかは、やはり「指揮命令下に置かれている」かどうかが大きなポイントになってくるのです。
 それでは、「指揮命令下に置かれている」とはどのような状態なのでしょうか。

 この判例では、「➀会社が行うように」「②会社から命令された場合や社内でせざるを得ない場合」の2つの条件が揃った場合に「指揮命令下の置かれている」としています。ちなみに、➀については必ずしも社内である必要はなく、会社から場所の指定をされていれば条件を満たします。

仕事内容に「作業に入る前の着替え・散水」を例に挙げていますが、もちろん仕事の内容は問いません。

塾講師と残業

 以上の判例を基に、塾講師の場合はどういった場合に残業に当たる可能性があるのかを見ていきましょう。

①定時内で終わることの出来ない業務量による残業

 定時内で終わることが出来ない業務量による残業は、「①会社が行うように」と「②
の社内でせざるを得ない」に該当する可能性が考えられます。
 例えば、定時を超えた下記の業務を行うと、残業に該当する可能性があります。

・生徒からの質問や相談の対応
・教材の作成やテスト採点
・人手不足による業務過多

②休日出勤

 人手不足や、自習室を開かなければならない等の理由で休日出勤する場合は、「①会社が行うように」と②の「社内でせざるを得ない」に該当する可能性が考えられます。

「名ばかり管理職」による塾長のサービス残業

 上記にご説明させていただいた内容に関し「自分は塾長で職務手当を貰っているからこの話は当てはまらない」と感じた方もいるのではないでしょうか。
 塾長は、別のサービス残業が該当することが考えられます。それは「名ばかり管理職」というものです。

「名ばかり管理職」とは、管理職に就いているにも関わらず与えられた業務がそれに値しない労働者のことを指します。この「名ばかり管理職」の特徴として、少ない職務手当がついたうえで、それに見合わないほど多くの残業をさせられているという点です。要するに残業代が職務手当に含まれている恰好なのです。

これは、労働基準法41条で定められている「管理監督者については労働時間・休憩・休日の規定の適用が除外される」に基づいているものです。しかし、ここでポイントとなるのが、「現場監督者」=「労働基準法上の管理監督者」とは限らないということです。

労働基準法上の管理監督者とは

では、労働基準法上の管理監督者とはいったいどのような労働者が該当するのでしょうか。過去の判例のおいては、以下の4つの観点から「管理監督者」に該当するかどうかの判断がなされています。

■一定部門等を統括する立場である
 少なくとも、会社の一定部門を統括する立場であることを「管理監督者」の条件にしています。例えば、塾内で人事権や決裁権がある塾長等が挙げられます。

■会社経営に関与している
 「管理監督者」は、会社経営に関わる判断に関与している必要があります。したがって、会社のトップが集まる会議に出席していたり、経営方針に意見する機会があったりするかどうか等が判断材料になってきます。

■労働時間や仕事を自身でコントロール出来る
 労働時間や仕事量を自身でコントロールすることが可能な立場であることが、「管理監督者」には求められます。例えば、自ら出勤・退勤時間を決めることが出来たり、業務量を自身で調整することが可能だったりする現場監督者が挙げられます。

■給与面で優遇されている
「管理監督者」は、役職等に就いていない労働者より給与面で優遇されていなければなりません。そのため、役職等に就いていない講師と比べて給与がほぼ変わらないようであれば、「管理監督者」に該当しない可能性が考えられます。

→さらに「名ばかり管理職」について知りたい方はこちらの記事をお読みください。

「名ばかり管理職」の可能性がある塾長

 以上を分かりやすく塾長に当てはめると、以下のような方は「名ばかり管理職」に該当する可能性があります。


・社員の採用に権限がない
・会社の経営方針に一切関与していない
・労働時間の裁量がない

 このような塾長は少なくないのではないでしょうか

管理監督者でないことが認められた裁判例

過去には、管理監督者に当たらないとして未払い残業代の支払いを命じられた裁判例がありました。

・管理監督者が問題となった受験予備校の裁判例
 小・中・高校生を対象として15校を展開する受験予備校で、講師、校長、マネージャー等を歴任した労働者に対して、管理監督者の該当性を否定し、未払い賃金に付加金を加えて
500万円以上の支払いが認められました。(横浜地判平成21年7月23日)

 この判例から言えることは、管理監督者の扱いをされ、サービス残業をしている塾長は少なくない、ということではないでしょうか。

残業代請求に向けての証拠の準備

 ここまでお伝えしたことに心当たりがある方は、サービス残業をさせられている可能性があります。過労で心身に不調をきたす等、大事に至らないうちに未払い残業代の請求を検討した方がよいでしょう。

 未払い残業代を請求するためには残業をした証拠が必要です。これは立証責任(確実な証拠で証明する責任)が請求者にあるためです。
 塾講師は、タイムカードや出勤簿等で労働時間が管理されていないケースが少なくないため、代わりに以下のものが残業をした証拠になり得ます。

◆パソコンのログ(パソコンのログ取得方法についてはこちらで詳しく説明をしています。)
◆サーバーへのログイン、ログアウトの記録
◆校舎のセキュリティ記録
◆授業のシフト表
◆会議や研修のスケジュールを記載した文書・メール
◆校舎間の移動に使用した電車のICカードの利用記録
◆始業・終業時刻をメモしたもの

まずは、以上の証拠になるものを入手したうえで、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」を読んでみてください。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

まとめ

 定時を超えて働いても労働時間扱いされず、サービス残業をしている塾講師は少なくありません。「塾講師で残業代が出ないことは、当たり前のことなんだ」と半ば諦めの気持ちでいる方もいるでしょう。
 しかし、無理をして長時間働くことは、授業の質の低下につながりかねません。

 生徒のために定時を過ぎて教材を作成することも大切ですが、過度なサービス残業になっているのであれば、未払い残業代を請求してみるのも一手です。
 そのような塾にテコ入れすることにより、教育業界の労働環境が見直される可能性があるかもしれません。

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