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管理監督者の定義とは:「管理職」=「管理監督者」ではない

更新日:2024年02月12日
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部長や課長等の管理職は、労働基準法で定められている管理監督者に該当するとして、残業代が支払われないケースがあります。
しかし、管理職と管理監督者はイコールとは限りません。ですので、「管理職だから」という理由で残業代が支払われない場合は、違法の可能性もあるのです。

では、管理監督者とは一体どのような労働者を指すのでしょうか。今回は、管理監督者の定義に迫っていきます。

労働基準法上の「管理監督者」の定義

 はじめに、労働基準法上の「管理監督者」の定義を確認していきましょう。労働基準法41条にて、管理監督者についての規定があります。

(労働時間等に関する規定の適用除外)
第41条 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の1に該当する労働者については適用しない。
1. 別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3. 監督又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

 以上の規定を要約すると、①管理監督者は監督もしくは管理の地位にある者」であり②「労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されない」ということになります。

 しかし、①②の要約で分かる方は少ないでしょう。というのも、労働基準法で定められている管理監督者は、あまりに抽象的であるため一言では説明し切れません。

そこで、さらにこの規定を噛み砕き、①②をそれぞれ解説していきます。

①「管理監督者は監督もしくは管理の地位にある者」とは

 ①「管理監督者は監督もしくは管理の地位にある者」については、東京労働局と厚生労働省が、それぞれの通達で見解を示しています。

東京労働局の見解

 東京労働局からの通達「しっかりマスター労働基準法―管理監督者編―」によると、以下のような者を管理監督者であるとしています。

管理監督者は法律上の労働時間の制限を受けませんが、管理監督者に当てはまるかどうかは役職名ではなく、その社員の職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて、実態により判断します。

そして、上記の条件を満たしている者として、以下の条件を挙げています。

・経営者と一体的な立場で仕事をしている
・出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
・その地位にふさわしい待遇がなされている

厚生労働省の見解

 一方、厚生労働省では、「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」という通達で、以下のような者を管理監督者である、と見解を示しています。

「管理監督者」は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。
「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。

 具体的に、以下の要素がある労働者を管理監督者と判断しています。

・労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な「職務内容」と「責任・権限」を有している
・労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な「責任と権限」と「責任・権限」を有している
・現実の勤務態様が労働時間等の規制に馴染まないようなものであること
・賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

「管理監督者」の定義

 東京労働局と厚生労働省の見解を見る限り、全出の①「管理監督者は監督もしくは管理の地位にある者」とは、以下のような役割を果たしている労働者を指すことが考えらます。

■一定部門等を統括する立場である
 会社の一定部門を統括する立場であることが「管理監督者」の条件です。例えば、社内で人事権や決裁権がある労働者等が挙げられます。

■会社経営に関与している
 「管理監督者」は、会社経営に関わる判断に関与している必要があります。したがって、会社のトップが集まる会議に出席していたり、経営方針に意見する機会があったりするかどうか等が判断材料になってきます。

■労働時間や仕事を自身でコントロール出来る
 労働時間や仕事量を自身でコントロールすることが可能な立場であることが、「管理監督者」には求められます。例えば、自ら出勤・退勤時間を決めることが出来たり、業務量を自身で調整することが可能だったりする労働者が挙げられます。

■給与面で優遇されている
「管理監督者」は、役職等に就いていない労働者より給与面で優遇されていなければなりません。そのため、役職等に就いていない労働者と比べて給与がほぼ変わらないようであれば、「管理監督者」に該当しない可能性が考えられます。

②「労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されない」とは

 続いて、②「労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されない」を解説していきます。
 労働基準法では、労働時間や休憩、休日に関して、それぞれの条項で規定があります。

・労働時間…1日8時間、1週40時間を超えて労働してはならない(労働基準法32条)
・休憩…1日6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければならない(労働基準法34条)
・休日…毎週少なくとも1日の休日(法定休日)を与えなければならない(労働基準法35条)
・割増賃金…32条の法定労働時間を超え、または35条の法定休日に労働させた場合は、所定の割増賃金を支払わなければならない(労働基準法37条)

 以上の規定が管理監督者になると適用されません。

つまり「管理監督者」とは

 これまでの内容をさらっておきましょう。
管理監督者とは、

・一定部門等を統括する立場である
・会社経営に関与している
・労働時間や仕事を自身でコントロール出来る
・給与面で優遇されている

である者を指すと考えられます。そして管理監督者は、労働基準法に定められている労働時間や休憩、休日が適用されません。

管理監督者と就業規則

 前述の通り、労働基準法では管理監督者についての規定がありますが、企業においては、どの職位を管理監督者と見なすのかを、就業規則で別途定義する必要があります。
 例えば以下のように、就業規則に明記されていなければなりません。

第〇条(管理監督者の定義)
1.管理監督者とは、職員を指揮監督する次の者を指す。
(1)部長
(2)課長
2.管理監督者については、第〇章に定める労働時間、休憩及び休日の規定は適用しない。

 多く見られるのが、「監督もしくは管理の地位にある者は、〇章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」とだけ就業規則に記載されているケースです。しかし、このような場合、どの職位が管理監督者に該当されているかが不明のため、効力を発揮しません。

管理監督者として認められなかった裁判例

管理監督者であるかどうかについては、過去に多くの裁判が行われてきました。
これらの裁判例を見ると、「会社がいう管理職」と「管理監督者」に相違があることをうかがい知れます。
そこで、過去にあった、「管理監督者として認められなかった管理職」の裁判例を見てみましょう。

■レストランビュッフェ事件
争点:時間外労働に対する割増賃金支払い義務の有無
地位:ファミリーレストランの店長
・店長としてコック、ウェイター等の従業員を統括し、採用にも一部関与し、店長手当の支給を受けていたが、従業員の労働条件は経営者が決定していた。
・店舗の営業時間中は拘束され、出退勤時間を自由に決められなかった。
・店長職務の他にコックやウェイター、掃除等、全般に及んでいた。

■インターパシフィック事件
争点:時間外労働及び休日労働に対する割増賃金支払い義務の有無
地位:ベーカリー部門及び喫茶部門の店長
・売上金の管理やアルバイト採用の権限がなかった。
・会社から勤務時間が定められており、毎日タイムカードに打刻をしていた。
・別途手当等が全く支払われていなかった。

■日本マクドナルド事件
争点:時間外労働に対する割増賃金支払い義務の有無
待遇:ファーストフード店の店長
・経営者と一体的な立場で企業全体の経営には関与していなかった。
・会社から勤務時間の指定をされ、自身で労働時間の決定が出来る状況ではなかった。
・部下の店長代理と年収に大きな違いがなかった。

不当に残業代を支払われていない管理職の特徴

 前項で紹介した判例を踏まえると、以下のような管理職は、不当に残業代を支払われていない可能性が考えられます。


・会社の経営方針に対して一切の関与がない
・部署等を統括する立場ではない
・決まった時間出社するように命じられている
・多忙を極めているのに仕事の調整が出来ない
・役職等に就いていない労働者と給与が変わらない
・欠勤をすると給与から控除されてしまう。

 もし、あなたが以上のいずれかに該当する場合、「名ばかり管理職」の可能性が考えられます。「名ばかり管理職」とは、管理監督者としての十分な権限や権利が与えられていないにも関わらず、管理監督者に該当させられている管理職の労働者を指します。

 「名ばかり管理職」の場合は、不当に残業代を支払われていない可能性があるので、未払い残業代の請求を検討した方がよいかもしれません。
 残業代の請求については、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」をお読みください。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

残業代に関する困りごとは弁護士へ相談を

労働基準法は、本来労働者の権利を守るためのものです。
しかし、管理監督者の規定に関しては抽象性が高いことが影響し、誤った解釈で管理監督者に該当させている会社も少なくありません。

他方で、労働基準法が適用されないことを利用し、十分な権限や権利を与えられていない労働者を管理監督者に該当させ、残業代の支払いを免れている会社がいることも否定できません。

もし、違法に残業をさせられているようであれば残業代の請求を検討してみてください。

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