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施設で働く介護士の“残業実態”と“残業代請求方法”のアイキャッチ

施設で働く介護士の“残業実態”と“残業代請求方法”

施設で働く介護士の“残業実態”と“残業代請求方法”のアイキャッチ

 2016年に介護士が施設利用者を殺害した「川崎老人ホーム連続殺人事件」がありました。この事件が起きた背景には、人材不足等による介護士の過度なストレスが原因と言われています。
 この事件がきっかけで、介護士の長時間のサービス残業が明るみになりました。

いったいなぜ、このような殺人事件を招くほど介護士はサービス残業をするようになったのでしょうか。
 今回は、介護施設で働く介護士の残業の実態についてお伝えさせていただきます。

サービス残業の最大の理由は「介護報酬」

介護士のサービス残業が多い最大の理由は、「介護報酬」にあると考えられているのです。

「介護報酬」とは、施設側が利用者に介護サービスを提供した対価として、施設に支払われるサービス費用のことをいいます。介護サービスの内容や施設・事業所の所在地等に応じて、報酬額は決定されます。
ある程度は時間外手当の分が考慮されているものの、「少しでも資金を残しておきたい」と考える施設や事業所の経営者は少なくありません。

このような背景があることから、時間外労働をしても残業代が支払わないといったケースが発生すると考えられています。

介護職の残業が多い理由

 さらに、介護士という職業は以下のような仕事の性質上、残業が多くなりがちなのです。

性質➀人手不足

 公益財団法人介護労働安定センターが「介護士の過不足」をテーマに行った調査によると、『介護サービスに従事する従業員の過不足状況を見ると、不足感「大いに不足」+「不足」+「やや不足」は61.3%であった。』(『http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/h27_chousa_kekka.pdf』)』というデータが出ています。
実に6割超の施設・事業所が人手不足を実感しているのです。

この調査結果を見る限りでは、介護士の人手不足が蔓延してきているとも言えるでしょう。そのため、1人ひとりが抱える業務が定時までに終了することが出来ない量になり、残業が発生しやすい環境になっているのです。

性質②記録のデスクワーク

 介護士は、以下のような利用者の身体状況等を記録に残す業務があります。

・利用者の生活の様子
・食事摂取量や排泄状況
・入浴時の様子

 特に食事摂取量や排泄状況は、その都度記録に残さなければなりません。
 しかし、利用者のお世話や報告書の作成等に追われることが多く、記録業務は定時以降に行うということが往々にしてあります。そのため、残業が発生するケースが多いのです。

性質③委員会・カンファレンスへの出席

 介護施設では、委員会やカンファレンス(会議)が行われます。とはいえ、前項で述べた通り勤務時間内に行うことが困難であることから、時間外に委員会を行わざるを得ないという事情があります。

性質④定時直前の利用者の急変

 施設で介護サービスを受けている利用者の中には、急変する方もいます。その場合、看護師が常駐している施設であれば、看護師の補助といった仕事が介護士には求められます。
また、病院への救急搬送になった場合には、介護士が同行しなければなりません。

 もし、このような事態が定時直前に起きた場合、介護士はもちろん残業をして対応をしなければならないのです。

介護報酬の減額

 上記に挙げたように、サービス残業が発生しがちな介護士ですが、さらにサービス残業に拍車をかける制度改正が行われたのです。

それが、2015年に行われた介護報酬の減額です。報酬額が2.27%引き下げられたことにより、多くの介護施設や事業所を廃業へ追い込む結果になったのです。
既存の介護施設で働く介護士は、今まで以上のサービス残業を強いられることが間々あるのです。

残業代請求も一手

介護士の残業

 介護士として働いている方の中で、サービス残業を強いられているようであれば、残業代の請求をしてみることも一手です。
とはいえ、どういった場合が残業時間に該当するのかの判断がしかねるかもしれません。この判断をするためには、まず労働時間の基準について知る必要があります。

労働時間の基準とは

労働時間の基準については、労働基準法32条で「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」を労働時間と定める、といった内容が記述されています。

「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」とは

 では、「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」とは、いったいどのような時間を指すのでしょうか。
以下の判例を基に解説をしていきます。

三菱重工長崎造船所事件(平成12年3月9日)最一小判

労働時間とは労働者が指揮命令下に置かれている時間をいい、客観的に判断する。
そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段のない限り使用者の指揮命令下に置かれたものと評価出来る。

 この判例は、作業に入る前の「着替え・散水の時間が労働時間に当たるかどうか」が争われた問題でした。

 この判例を分かりやすく噛み砕くと以下のようになります。

作業に入る前の着替え・散水を社内で行うように、会社から命令された場合や社内でせざるを得ない場合は、特別な事情がない限り会社の指揮命令下に置かれたものとして扱う。
この行為が所定労働時間外で行うものされている場合であっても同じである。

 結果、この判例では、着替え・散水の時間が労働時間として認められました。
 労働時間かどうかは、やはり「指揮命令下に置かれている」かどうかが大きなポイントになってくるのです。
 それでは、「指揮命令下に置かれている」とはどのような状態なのでしょうか。

 この判例では、「➀会社が行うように」「②会社から命令された場合や社内でせざるを得ない場合」の2つの条件が揃った場合に「指揮命令下の置かれている」としています。ちなみに、➀については必ずしも社内である必要はなく、会社から場所の指定をされていれば条件を満たします。

今回は仕事内容に「作業に入る前の着替え・散水」を例に挙げていますが、もちろん仕事の内容は問いません。

介護士と残業

 以上の判例をベースに、介護士の場合はどういった場合に残業に当たる可能性があるのかを見ていきましょう。

定時直前の介助よる残業

 介助は、定時直前とはいえ残業をして対応せざるを得えません。その場合、施設側や上司から残業をするように指示されるわけではないかもしれません。しかし、このケースというのは、②の「残業せざるを得ない場合」に当たる可能性が考えられるのです。

人手不足による残業

 人手不足による残業の場合も、②の「残業せざるを得ない場合」に該当すると言えるでしょう。また人手不足でなくとも、時間内に終わることが出来ない程の業務量を抱え残業にならざるを得ない場合も、残業になる可能性が考えられます。

記録業務

 定時までに手をつけられず時間外に記録業務をせざるを得ないという場合は、労働時間に該当することが考えられます。これは「➀会社が行うように」と②の「社内でせざるを得ない場合」に該当する可能性を否定出来ないためです。

勤務時間外に行われる委員会・カンファレンス

勤務時間外に行われる委員会やカンファレンスは施設側から参加するように言われていたり、参加せざるを得ない状況だったりするようであれば、「指揮命令下に置かれている」とも言えます。そのため、残業時間に該当する可能性が考えられます。

 但し、自主的に参加する場合は、残業にはならないかもしれません。

「名ばかり管理職」による店長のサービス残業

 以上でご説明させていただいた内容に関し「私は主任で別途、職務手当を貰っているからこの話は当てはまらないかも」と感じた方もいるのではないでしょうか。
 施設管理者や主任等の管理職に当たる介護士は、別のサービス残業が該当することが考えられます。それは「名ばかり管理職」というものです。

「名ばかり管理職」とは、管理職に就いているにも関わらず与えられた業務がそれに値しない労働者のことを指します。この「名ばかり管理職」の特徴として、少ない職務手当がついたうえで、それに見合わないほど多くの残業をさせられているという点です。要するに、残業代が職務手当に含まれている恰好なのです。

「名ばかり管理職」は、労働基準法41条で定められている「管理監督者については労働時間・休憩・休日の規定の適用が除外される」に基づいているものです。しかし、ここでポイントとなるのが、「施設管理者・主任」=「労働基準法上の管理監督者」とは限らないということなのです。

労働基準法上の管理監督者とは

では、労働基準法上の管理監督者とはいったいどのような労働者が該当するのでしょうか。過去の判例のおいては、以下の4つの観点から「管理監督者」に該当するかどうかの判断をしています。

■一定部門等を統括する立場である
 少なくとも、会社の一定部門を統括する立場であることを「管理監督者」の条件にしています。例えば、介護施設内で人事権や決裁権がある介護士等が挙げられます。

■会社経営に関与している
 「管理監督者」は、会社経営に関わる判断に関与している必要があります。したがって、施設のトップが集まる会議に出席していたり、経営方針に意見する機会があったりするかどうか等が判断材料になってくるのです。

■労働時間や仕事を自身でコントロール出来る
 労働時間や仕事量を自身でコントロールすることが可能な立場であることが、「管理監督者」には求められます。例えば、自ら出勤・退勤時間を決めることが出来たり、業務量を自身で調整することが可能だったりする介護士等が挙げられます。

■給与面で優遇されている
「管理監督者」は、役職等に就いていない労働者より給与面で優遇されていなければなりません。そのため、役職等に就いていない介護士と比べて給与がほぼ変わらないようであれば、「管理監督者」に該当しない可能性が考えられます。

→さらに「名ばかり管理職」について知りたい方はこちらの記事をお読みください。

「名ばかり管理職」の主任の特徴

 以上を分かりやすく施設管理者や主任に当てはめると、以下のような方は「名ばかり管理職」に当たる可能性があります。


・介護士の採用に権限がない
・施設の経営方針に一切関与していない
・定時後の残業はタイムカードを打刻して行うようにと施設から指示され、労働時間の裁量がない

 このような施設者や主任は少なくないのではないでしょうか?

未払い残業代を請求する方法

 以上のことをお読みになったうえで、サービス残業をさせられている可能性がある方は未払いの残業代の請求を考えた方がよいでしょう。
 未払いの残業代を請求するためには残業をした証拠が必要です。これは、立証責任(確実な証拠で証明する責任)が請求者にあるためです。

 タイムカードで勤務時間の管理をしっかりしているのであれば十分な証拠になります。しかし、サービス残業が行われている店舗では使用していないか、タイムカードを打刻してから時間外労働をしています。

 そのため、タイムカードに代わる以下の証拠が必要です。

・業務日報
・パソコンの日報送信時間
パソコンのログイン・ログオフ時間
・電話やメールの履歴時間
・手帳や日記に記したメモ
・セキュリティカードの記録
・シフト表

 まずは、以上の証拠になるものを入手したうえで、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」を読んでみてください。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

まとめ

 介護士のサービス残業が常態化しているとはいえ、働いた分の賃金を支給してもらうことは労働者として当然の権利です。
 もしサービス残業が強いられているようであれば、残業代の請求も検討してみてください。残業代の請求をしたことで施設、ひいては介護業界全体の労働環境が見直されるきっかけになるかもしれません。

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