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労働時間の定義から見る僧侶の残業代未払い問題

2018年07月17日 公開
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飲食店員は疲弊し、建築業界は悲鳴をあげる…人手不足や薄給による労働問題は枚挙にいとまがないです。当サイトでも、様々な職業の残業代未払いについてお伝えしてきています。その魔の手は、「住職」や「お坊さん」と呼ばれているお寺業界にまで伸びています。

僧侶の労働問題が公になった事件

 僧侶の残業代未払い問題が公になったのは2017年4月。伝統仏教教団「真宗大谷派」が本山・東本願寺で雇用する僧侶に残業代を支払わず働かせていたのが事の発端です。早朝から深夜まで働き、時間外労働は多い月で130時間にまで上っていました。

 同寺院で勤務していた非正規雇用の男性僧侶2名は、2013年11月から2017年3月までの未払い残業代、計660万円の支払いを求めました。
それに対し、同寺院は未払い残業代の660万円を支払うことで決着がつきました。

修行か労働かの線引きが曖昧

 ではなぜ、このような事件が発生したのでしょうか。それは、「修行」と「労働」の線引きが曖昧なお寺業界特有の性質が関係していたのです。
 2人の僧侶の職種は「補導(ほどう)」です。補導の仕事内容は、泊まりがけで奉仕に訪れる門徒(もんと:同じ宗派を信仰している人)を東本願寺境内の研修施設で世話をする係です。夜の講義や座談会、早朝の勤行(ごんぎょう)等にも同席します。

 大谷派の主張では、「僧侶というのは出家(世俗の生活を捨てた)人だから、雑務は修行であって仕事ではない。したがって、本来給料は出ない。未払い残業代などはもっての他。」です。

 しかし、現在の法律では、僧侶や宗教法人と労働契約を結ぶ、いち労働者なのです。「僧侶がお寺に対して労務を提供する代わりにお寺から報酬として賃金をもらう」という関係が成り立っている以上、労働が発生しています。
そのため、その労働は労働基準法で定められている労働時間の定義が適用されるのです。

労働時間の定義とは

労働基準法32条では「労働者が使用者(会社等)の指揮命令下に置かれている時間」を労働時間と定める、といった内容が記述されています。
つまり、「労働者が使用者(会社等)の指揮命令下に置かれている」かどうかが労働時間の判断基準とされているのです。

これを、お寺業界に当てはめると、「➀寺側が行うように」「②寺側から命令された場合や寺内でせざるを得ない場合」の2つの条件が揃った場合に、労働時間と見なす、ということを示しています。
ちなみに、➀については必ずしも寺内である必要はなく、寺側から場所の指定をされていれば条件を満たします。

労働時間の定義から見るお寺業界の残業

 前述の①②と照らし合わせながら、お寺業界ではどういった場合が残業に該当する可能性があるのかを見ていきましょう。

【僧侶の1日】

5:00 起床・境内清掃

6:00 朝の勤行(読経等)

8:00 朝食

9:00 葬儀・通夜・事務作業等

16:00 夕の勤行(読経等)

21:00 就寝

なお、僧侶は一般的に上記の【僧侶の1日】をベースに修行や雑務をこなします。

1日8時間の労働を超えた場合

 労働基準法では法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えた残業に対しては割増賃金を支払わなければならない、という規定があります。そのため、上記の【僧侶の1日】であれば、5時に勤務が開始され、13時の時点で8時間労働になっています。よって、それ以降の労働に対しては残業の対象になることが考えられます。
朝早くから夜遅くまで働くように寺側から言われている場合は、①の「寺側が行うように」が該当するでしょう。また、寺側から明言されていなくても【僧侶の1日】のように長時間働くことが習わしになっている場合は、②の「寺内でせざるを得ない」が該当し、残業代が発生する可能性があります。

門徒の対応をした場合

門徒から相談等の要望があれば、たとえ就寝時間の夜9時を過ぎていても対応しなければならないでしょう。この場合は、②の「せざるを得ない」に当たり、残業の可能性が考えられます。

未払いの残業代を請求する

 働いた分の賃金を支給してもらうことは労働者にとって当然の義務であります。僧侶とて、未払いの賃金があるようであれば残業代の請求をするべきでしょう。
未払い残業代を請求するためには残業をした証拠が必要です。これは、立証責任(確実な証拠で証明する責任)が請求者にあるためです。

お寺業界の場合、勤怠記録が行われていないケースが多いため、以下のものを残業の証拠として揃えておきましょう。

◇パソコンのログ ※ログ取得方法はこちらの記事で確認出来ます。
◇手帳等の記録
◇メール・FAXの送信履歴

まずは、以上の証拠になるものを入手したうえで、下記の記事を読んでみて下さい。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

お寺業界の現状と課題

 2人の男性僧侶によって、未払い残業代があることが明るみに出ましたが、残念ながらお寺業界の労働問題は山積みです。特に以下の2つが挙げられるでしょう。

労働時間の把握をしていない

 大谷派が「労働時間を把握出来ていなかったことが一番の問題。進行と仕事の両面を考慮して法令順守に努めていきたい」とコメントを残している通り、寺側で僧侶の労働時間に管理をしていないケースが非常に多いです。
 まずは労働時間の管理が、労務環境改善の一歩と言えるでしょう。

長時間のサービス残業がまかり通る古い体質

 大谷派は職業組合と残業代を支払わないという違法な覚書を1973年に交わしていたことが明らかになりました。これにより、40年以上にもわたって残業代の支払いから免れていたことも判明しました。
ともすれば、これは氷山の一角であり、他の宗派でも違法な覚書が交わされている可能性が考えられます。”修行は労働ではなく奉仕”、そんな言い草を盾にして、僧侶に長時間のサービス残業がさせる古い体質が今もなお、お寺業界にはまかり通っているのです。

 「働き方改革」ならぬ「考え方改革」がお寺業界には必要なのかもしれません。

終わりに

僧侶の残業代未払い問題は、そもそも「お坊さんの仕事は何か」ということが問われる機会になりました。労働基準法で定められている労働時間の定義を見る限り、その多くは労働時間に該当するとも言えるでしょう。
この問題を皮切りに、お寺業界が労働環境の改善に進むことを願います。

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