残業代請求弁護士ガイド

残業代請求専門の弁護士検索・法律相談ポータルサイト

“働き方改革”を掲げる安倍政権の目的とは?のアイキャッチ

“働き方改革”を掲げる安倍政権の目的とは?

“働き方改革”を掲げる安倍政権の目的とは?のアイキャッチ

2017年初め、安倍首相がこのような宣言をしました。

「今年は“働き方改革"断行の年です。」

 ニュースやメディアでもこの“働き方改革"は取り上げられる機会が増えてきています。
 そんな今話題の“働き方改革"が具体的に何をするものなのか皆さんはご存知でしょうか?

 本記事では、“働き方改革"についてご説明させていただきます。

“働き方改革"とは

 2015年、政府は女性や高齢者等、誰もが活躍出来ることを目指す「一億総活躍社会」を掲げました。その実現に向け、最大のチャレンジとして位置づけられているのが“働き方改革"です。

 働き方改革は、日本の企業文化(コーポレートカルチャー)やワークライフ等、働くことに対する考え方の改善を目指しています。「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」の2つが、働き方改革の大きな柱です。

「働き方改革」が必要とされる背景

 この2つがなぜ働き方改革の柱となっているでしょうか。それには、以下のような背景があるためです。

背景➀労働力人口の減少

【労働力人口グラフ】
労働力人口グラフ
出典元:http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/html/g1331010.html

まず1番の要因に、労働力人口の減少が挙げられます。労働力人口とは、15歳以上で労働する能力と意思がある人数のことです。

 2007年には、団塊の世代が定年の60歳を迎える大幅な労働力人口の減少を食い止めるため、高年齢者雇用安定法の改正を行いました。この改正により、希望者は65歳まで働くことが出来るようになる等、政府はその都度、対策をとっていました。

・団塊の世代とは
 第二次世界大戦後の1947~1949年にかけて生まれた世代のことをいいます。この3年間の出生数は約800万人にものぼり、第一次ベビーブームと呼ばれています。

しかし、上記の【労働力人口グラフ】を見る限り、法の一部改正だけでは、労働力人口の根本の改善になることは見込めません。
 このまま人手が減ってしまえば、労働者一人一人に降りかかる労働量は増え、今よりも長い労働を強いられてしまうのが必至です。それを防ぐために“働き方改革"が必要になっているのです。

背景②長時間労働

 日本では、かつて「企業戦士」「モーレツ社員」といった言葉が流行したように、社員は会社のために身を粉にして働くことが美徳とされてきた企業文化があります。
 その文化を象徴するかのように、日本は欧州諸国等に比べ労働時間が長く、長時間労働による過労死が多いことが問題となっています。

【長時間労働者の構成比(1週あたりの労働時間)】

長時間労働者の構成比(1週あたりの労働時間)
出典元:https://bizhint.jp/keyword/53239

 現在、労働基準法では会社は労働者を1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならないという規定があります。とはいえ、特別条項付き36協定を結ぶことによって、会社は月45時間以上の時間外労働を労働者に課すことが出来てしまうのです。

 一方、欧州連合(EU)では、EU労働時間指定において「7日ごとの平均労働時間が、時間外労働を含め48時間を超えてはならない」という規定があります。日本のように規定を超えた労働時間を許す特別条項付き36協定のようなものはありません。そのため、1週間で8時間の残業しか許されないのです。

日本は長時間労働の是正を行うため、EU諸国のように、時間外労働の上限を設けた法改正を視野に入れた、働き方改革が必要となっているのです。

背景③少子高齢化

 また、長時間労働は少子高齢化を助長させています。
少子高齢化
出典元:https://bizhint.jp/keyword/53239

 上図であるように65歳以上の高齢者の割合は、2015年は総人口の26.8%と約4人に1人以上ですが、2060年には39.4%と、なんと3人に1人以上の割合になることが予想されています。このように高齢者の割合増加が予想される背景の1つとして、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産むと推定される子供の数)の低下が関係しています。

【合計特殊出生率と出生数の推移】
合計特殊出生率と出生数の推移
出典元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E8%A8%88%E7%89%B9%E6%AE%8A%E5%87%BA%E7%94%9F%E7%8E%87

 1947年は4.5あった合計特殊出生率が近年では1.5以下にまで低下しているのです。人口を維持するためには、出生率が2.1を上回る必要があると言われています。そのため遠くない将来、人口が減少することが予想されているのです。

 この合計特殊出生率の減少には長時間労働と女性の社会進出による共働きが関係していると言われています。共働きとなれば、仕事と子育てを両立させることは大変です。

保育園に子供を預ければ夫婦のどちらかが仕事を残業せずに切り上げて迎えに行かなければなりません。しかし定時退社が難しい現在の日本の職場風土では、「周りに気を遣う」等といった意見が多く、子育てと仕事を両立する難しさがあります。

そのため、合計特殊出生率は「2.1」を求められているものの、第2子の子づくりを控えてしまう夫婦が増えていることが要因となって、出生率の更なる低下を招いています。

 長時間労働が改善されない限り、この少子高齢化の波を止めることは出来ないのです。

背景④労働生産性の低下

 また、労働生産性の低下も問題となっています。
 労働生産性とは、労働者1人あたりがどれだけ効率的に成果を生み出したかを指標化したものです。労働生産性の向上は、経済成長や経済的な豊かさをもたらします。

【OECD加盟諸国の労働生産性】
OECD加盟諸国の労働生産性
出典元:https://bizhint.jp/keyword/53239

 2015年度の日本の各目労働生産性(就業者1人あたりの付加価値額)は、公益財団法人日本生産性本部の発表によると783万円です。この額はOECD加盟国では平均以下となっており、G7(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの先進7ヶ国)においては最下位となっています。
 先進国の中でも労働生産性の低さが際立つ結果となってしまいました。

・OECD(経済協力開発機構)とは
 「Organisation for Economic Co-operation and Development」の略で、ヨーロッパ諸国をはじめ先進国等、35ヶ国が加盟しています。
 加盟国の自由な情報交換を通じOECDは、三大目的である「経済成長」「貿易自由化」「途上国支援」に貢献することが目的です。

 日本では、かつて長時間労働をすることが美徳とされる文化がありました。しかし、その文化では生産性が上がることは期待出来まないということは証明されました。労働力人口が減少している今だからこそ、「労働生産性の向上」に向けた働き方改革が必要となっています。

働き方改革が目指すもの

 では、「働き方改革」は具体的に何を目指すのでしょうか。
 既に触れている通り、「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」の2つが働き方改革の大きな柱と述べましたが、具体的には以下の4つを目指しています。

改革➀非正規雇用労働者に対する待遇の改善

 現在の日本では、同じような業務をしているにも関わらず、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に賃金格差が起きています。

【正規雇用労働者の賃金を100とした時の、非正規雇用労働者の賃金割合】
非正規雇用労働者の賃金割合
出典元:http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/f110b0ef2fb1f34a9844a29ea21d6b0a

 総務省の労働力調査によると、非正規雇用労働者の賃金は、上のグラフのように正規雇用労働者の6割程度と、欧州諸国の8~9割に比べると低いです。この低さを解消しようと考えられたのが「同一労働同一賃金ガイドライン案」です。

・同一労働同一賃金ガイドライン案とは
 正規雇用や非正規雇用等、労働者の雇用形態を問わず均等な待遇とし、同一労働同一賃金を実現するために策定されたガイドラインです。

今後はこの「同一労働同一賃金ガイドライン案」を基にして、法律改正を行っていきます。

改革②長時間労働の是正

 前項でも述べたように、日本の労働時間は欧州諸国と比較して長いです。共働きが増えている今、仕事と子育てを無理なく両立させるためには長時間労働を是正しなければなりません。

 長時間労働の是正を行うため、働き方改革では36協定に罰則付きの労働時間上限規定を設けることを目指しています。
 また、過重労働を撲滅するために、厚生労働者の労働基準監督課が特別対策チーム「かとく」を発足しました。「かとく」では、違法な長時間労働等が認められた企業に対し立ち入り調査行う等の活動が行われています。

改革③柔軟な働き方が出来る環境整備

 仕事と子育ての両立を目指した長時間労働の是正も必要ではありますが、今の日本には柔軟な働き方が出来るようなフレキシブルな環境づくりが叫ばれています。

 その一環としてテレワークという働き方が、企業に広まりつつあります。
 テレワークとは、パソコンやインターネットを活用した、場所や時間にとらわれない働き方のことをいいます。
このテレワークの普及により、仕事と子育ての両立が期待されているのです。

 また、現在は副業や兼業を認めている企業が少ないです。働き方改革では、副業・兼業が普及するようなガイドラインの策定も進めています。

働き方改革取り組み事例

 以上のように、政府が働き方改革を進めている一方で、一部の企業では独自の“働き方改革"を実施し成果を生み出しているのです。
 その中の、あるIT企業のS社の事例を紹介します。

 IT企業のS社は、「働きやすい、やりがいのある会社」を目指し、育児・介護支援制度の拡充や、女性の活躍推進といった環境整備に着手し、大きく成果を上げています。

 環境整備に着手したきっかけは、2011年に遡ります。
 2011年、J社とC社が合併したことでS社は誕生しました。当時の社長は、従業員が疲労していることや自分磨きの時間もないことに懸念を抱いていました。それがきっかけとなり、会社の環境整備に着手するようになったのです。

 S社の社長が環境整備に向けて取り組んだ内容は以下の3つでした。

➀長時間労働の改善
月の平均残業時間20時間未満を目標に掲げる等、長時間労働の改善を実施しました。また、それによって減少した残業手当分を、達成状況の応じた賞与支給に充てる等の給与面の改善も同時に行ったのです。

 結果、月の平均残業時間は26時間10分から、18時間16分に減少させることに成功しました。

②育児・介護支援
仕事と育児・介護の両立を目指した両立支援制度を導入しました。この制度には、家族の介護や子供の学校行事、不妊治療等の際に使用出来る休暇制度等があります。

③女性労働者支援
女性社員のさらなる活躍を支援するために、女性の役員・管理職者を2018年までに100名にするという目標を設定しました。その目標を達成するための研修等を実施しています。
研修等の甲斐もあり、支援前13名だった女性の役員・管理職者は、支援後54名まで増えたのです。

まとめ

 日本の人口減少や労働環境の変化によって、いよいよ働き方にも大きな改革が必要となっています。そこに大きなメスを入れたものが“働き方改革"といえるでしょう。

 S社のように働き方改革を自社で取り組む企業は徐々に増えています。政府もまた、働き方改革を実現するため、企業に対し働き方改革のセミナーを行う等、尽力しているのです。

2017年2月からはプレミアムフライデー(毎月月末の金曜日の終業時間を15時に早めること)も開始され、仕事効率を高めて労働時間を短縮する必要性が本格化しています。

安倍首相の宣言通り“働き方改革"が実現するまでにはまだまだ時間を要するようです。

この記事の著者

編集部の画像

編集部 (弁護士)編集部