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フレックスタイム制の清算期間が最長3ヶ月に改正されたことで生じる変化

更新日:2021年10月05日
フレックスタイム制の清算期間が最長3ヶ月に改正されたことで生じる変化のアイキャッチ

2019年4月1日より「働き方改革関連法」の施行によりフレックスタイム制の清算期間が1ヶ月から3ヶ月に改正されました。
 今回は、フレックスタイム制の説明はもちろん、清算期間が3ヶ月に改正されたことで生じる変化についてお伝えしたいと思います。

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、労働者本人が出社時間と退社時間を自由に決めることが出来る制度です。従来の9~17時のような決まった時間の労働ではなく、通勤ラッシュを避けたり、子供の送り迎えをしたり等、労働者のライフスタイルに合わせることが出来るので自由度が高いのが特長です。

フレックスタイム制と清算期間

 フレックスタイム制は、労働時間の計算を1日単位ではなく清算期間という単位で行います。従来、清算期間の範囲は労働基準法で「1ヶ月以内」と定められていました。
 ですので、それぞれの会社が、清算期間を1週あるいは1ヶ月で設定しています。

清算期間の「1ヶ月」と「3ヵ月」

 そんな中、今回の「働き方改革関連法」の施行により、最大で3ヶ月までを清算期間とすることが認められるようになりました。
その内容については、厚生労働省が発表した『「労働基準法等の一部を改正する法律案」について』の一部の明記されている「フレックスタイム制の見直し(清算期間の上限の延長)について」に詳細が記されています。
 それを元に、清算期間が1ヶ月から3ヶ月に改正されたことで生じる変化を見ていきましょう。

清算期間1ヶ月

 まずは清算期間が1ヶ月だった時のフレックスタイム制をさらっていきましょう。
 最長1ヶ月の清算期間内で、所定労働時間(会社と労働者の間であらかじめ決めた1日の労働時間)の枠内で、労働者が始業・終業時間を自由に選択出来ます。
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上記の図で明記されているコアタイムとは必ず出勤をしなければならない時間帯のことをいいます。コアタイムの始まりの時間にいなければ遅刻扱いとなり、途中で帰れば早退扱いになります。
対してフレキシブルタイムとは、いつでも出退勤することが可能な時間帯のことを指します。
 フレックスタイム制では、フレキシブルタイムを利用して労働時間の調整を行えるのです。

 ただ、労働時間には上限があります。
 一般的な働き方の場合に法定労働時間(1日8時間、週40時間)が定められているように、フレックスタイム制では総労働時間というものが定められています。
 総労働時間は、週と月ごとに下記のように定められています。

  一般事業場 特例措置対象事業場
1週 40時間 44時間
1ヶ月 28日の場合 160.0時間 176.0時間
29日の場合 165.7時間 182.2時間
30日の場合 171.4時間 188.5時以
31日の場合 177.1時間 194.8時間

 総労働時間は、上記の時間内で定めなければなりません。総労働時間を超えた場合は別途、割増賃金が支払われます。
上記の特例措置対象事業場とは、以下のような業種で常時労働者の人数が10名未満の事業所に限ります。

業種 主な内容
商業 卸売業・小売・不動産管理・出版等の商業
映画・演劇業 映画の映写・演劇等の興業
保険・衛生業 病院・診療所・保育園・老人ホーム等の社会福祉施設
接客・娯楽業 旅館・飲食店・理容室・遊園地等の接客娯楽

清算期間1ヶ月の問題点

 清算期間1ヶ月だと、労働者はその期間内でしかライフスタイルに合わせた対応が出来ません。そのため、限定的な対応しか出来ないのが問題点となっています。

清算期間3ヶ月

 その限定的な対応をよりフレキシブルなものにしたのが、今回の「清算期間3ヶ月に改正」です。
 清算期間を3ヶ月に設定すると、下記の図のように月をまたいだ労働時間の調整が可能になります。

3ヶ月の場合

清算期間の最長期間が従来の1ヶ月の場合は、上記図の①の部分は総労働時間を超えているので割増賃金が支払われなければなりませんでした。また、②のように総労働時間を下回ると欠勤控除の対象になっていました。

しかし、清算期間が3ヶ月に延長されたことで、①のように総労働時間を超えた時間分を、労働時間が少ない6月に充てることが可能になったのです。
 これにより、会社は割増賃金の支払いを防げ、労働者は欠勤控除を避けられます。よって、清算期間が3ヶ月になることで、よりライフスタイルに合わせた労働が出来るというメリットが生まれたのです。

1ヶ月を超える清算期間を設ける際の条件

 とはいえ、清算期間3ヶ月は利便性が高まる反面、労働時間が特定のひと月に集中し、労働者が健康を害する恐れが予想されます。
 そこで、清算期間が1ヶ月を超えて設定する場合は、下記3つの条件が満たさなければなりません。

【条件①】「清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届」の提出

 従来の清算期間1ヶ月以内のフレックスタイム制では、労使協定上でフレックスタイム制にする旨の記述がされていればOKでした。
しかし、1ヶ月を超える清算期間を定める場合は、さらに労働基準監督署に「清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届」を届出ることが義務化されました。

 その協定届のフォーマットは下記になります。

清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届
フレックスタイム制

【条件②】各月の週平均労働時間の上限が50時間

各月の週平均労働時間の上限を50時間にする規定を新たに設けています。
 この規定により、1週間あたりの残業時間を10時間以内に抑えることが出来、延いては1ヶ月の残業時間45時間弱に抑えることが可能になります。
 つまり、36協定で定められている1ヶ月の残業時間の上限である45時間を超えない計算になるのです。
 これにより、労働時間が特定のひと月に集中することを防げるようになります。

【条件③】特例措置対象事業場の総労働時間1週44時間は適用されない

 清算期間が1ヶ月を超える場合、従来あった「特例措置対象事業所の1週の総労働時間44時間」は適用されません。
 どの会社も一般事業所に該当される1週40時間が総労働時間に適用されます。

自己管理が出来ない社員が増えるデメリット

 清算期間を3ヶ月にすると、労働者がよりライフスタイルに合わせた労働が可能になる一方で、デメリットも生じます。

 過去に、自己管理が十分に出来ない社員に清算期間1ヶ月のフレックスタイム制を導入したら、勤務時間がルーズになり返って業務効率が低下してしまった、としてフレックスタイム制度を廃止したケースがありました。

 そんな過去の事例があるだけに、清算期間が3ヶ月に改正されたことで自己管理が出来ない社員が増えるのではないか、という懸念もあります。
 開始されて間もない清算期間3ヶ月。労働者にとってはよい改正と言えますが、生産性が低下させないことが今後、会社の課題になるかもしれません。

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残業代請求弁護士ガイド 編集部

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