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管理職の残業代が出ないのは、労働基準法が関係している?

更新日:2021年10月20日
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一般的に、管理職になると残業代が出ない等、役職に就いていない労働者と異なる待遇を受けます。
 なぜ管理職になると待遇が異なるのでしょうか。明確に把握している方は少ないかもしれません。

 実は、管理職の残業代が出ないのは、労働基準法が関係しています。
 そして、この労働基準法を隠れ蓑にして、不当に残業代の支払いから免れている会社は少なくないのです。
 一体どういうことなのか。本記事では、「管理職の残業代が出ないこと」と「労働基準法」の関係性について深掘りしていきたいと思います。

管理監督者と管理職

一般的な管理職の待遇は、労働基準法で定められている管理監督者に当てはめて考えられています。そこで、まずは管理監督者の定義をさらっていきましょう。

管理監督者の定義

 管理監督者については労働基準法第41条で以下のように定められています。

(労働時間等に関する規定の適用除外)
第41条 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の1に該当する労働者については適用しない。
1. 別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3. 監督又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

以上の規定を要約すると、管理監督者は「①監督もしくは管理の地位にある者」であり「②労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されない」ということになります。②については後述しますので、まずは管理監督者の定義に大きく関わる①について深掘りをしていきます。
東京労働局と厚生労働省の見解では、以下のような役割を果たしている労働者が管理監督者に該当します。

■一定部門等を統括する立場である
 会社の一定部門を統括する立場であることが管理監督者の条件です。例えば、社内で人事権や決裁権がある労働者等が挙げられます。

■会社経営に関与している
 管理監督者は、会社経営に関わる判断に関与している必要があります。したがって、会社のトップが集まる会議に出席していたり、経営方針に意見する機会があったりするかどうか等が判断材料になってきます。

■労働時間や仕事を自身でコントロール出来る
 労働時間や仕事量を自身でコントロールすることが可能な立場であることが、管理監督者には求められます。例えば、自ら出勤・退勤時間を決めることが出来たり、業務量を自身で調整することが可能だったりする労働者が挙げられます。

■給与面で優遇されている
管理監督者は、役職等に就いていない労働者より給与面で優遇されていなければなりません。そのため、役職等に就いていない労働者と比べて給与がほぼ変わらないようであれば、管理監督者に該当しない可能性が考えられます。

管理職の定義

対して、いわゆる管理職とは次のような労働者のことを指すでしょう。

・部長や課長、マネージャー等、役職を与えられた労働者
・店長や支店長、工場長等、事業所を代表する者

 仕事内容や権限によって該当するかどうかが決定される管理監督者とは異なり、管理職は一定の組織を代表する者が該当すると言えます。

管理監督者と管理職の認識の相違

以上で説明した通り、管理監督者と管理職は定義に相違があることが一目瞭然です。
両者の違いを比較しやすいように、下記の表にしてみました。

  管理監督者 管理職
勤務日・勤務時間 出退勤する時間や日程を自身で自由に決めることが出来る 出勤日と始終業時間が決められており、それに従わなければならない
責任・権限 会社全体の経営方針を決定する会議に参加し、意思決定に関与出来る

社員を自由に採用出来る

経営方針に関わることが出来ない

自身の権限では社員を採用出来ない

待遇 役職に就いていない社員とは大きく異なる金額の給与をもらっている 役職に就いていない社員と給与がさほど変わらない(役職手当を貰っていても数万円程度等)

つまり、管理職と管理監督者はイコールでないケースが多いのです。

管理監督者が除外される3つの規定

 イコールではないにも関わらず、管理職に管理監督者を該当させると問題が発生します。それは、既出の「②労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されない」が施行されるということです。
 では、②がどのように施行されるのかについて、「労働時間」「休憩」「休日」それぞれに分けてご説明させていただきます。

【規定①】労働時間に関する規定が適用されない

 労働基準法第32条では、原則、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて労働してはならない、という規定があります。併せて、法定労働時間を超えた場合は、時間外労働賃金(残業代)を別途支払わなければならない、とも定められています。
 しかし、管理監督者は自身で働く時間を決定する権限があるため、それらの規定が適用されません。

【規定②】休憩時間に関する規定が適用されない

 労働基準法第32条では、1日6時間を超えて労働する場合には45分以上、8時間を超えて労働する場合は1時間以上の休憩をとらなければならない、と定められています。
 ですが、自由に勤務時間を決められる管理監督者は、その規定が適用されません。

【規定③】休日に関する規定が適用されない

 労働基準法35条では、1週のうち少なくとも1日は休日をとらなければならない、と定められています。
 しかし、監理監督者は自身で休日を決定出来るため、その規定が適用されません。

 管理監督者に該当しないにも関わらず、以上の規定①~③が施行される管理職は、不当に残業代が支払われないという事態が発生するのです。

判例

 実際に、不当に残業代が支払われていないとして、過去に裁判になった事例もあります。以下に列記させていただきます。

【判例①】日本マクドナルド事件

 平成20年に、日本マクドナルドの直営店の店長が管理監督者に当たらないとして、時間外手当の支払いについて訴訟を起こしました。

◇判決
管理監督者に該当しない

◇要因
・店舗運営において重要な責務を担っていたが、その権限の範囲は店舗内に限られていた
・法定労働時間を超える長時間労働を余儀なくされ、労働時間を自由に決定出来る裁量がなかった
・店長と店長に次ぐ者の賃金に、ほぼ差がなかった

【判例②】育英舎事件

 平成14年、学習塾の育英舎の営業課長が、管理監督者に該当しないとして、残業代の支払い義務の有無が争点になった事件です。

◇判決
管理監督者に当たらない

◇要因
・人事管理を含めた運営に関する管理業務全般を担っていたものの、一定以上の権限はなかった
・出退勤の際にタイムカードへの記録が求められ、他の従業員と同様の勤怠管理が行われていた
・給与等の待遇が他の従業員と比較して、優遇されているとは言えなかった

【判例②】マハラジャ事件

 平成12年、インド料理店の店長が管理監督者に該当しないとして、未払い残業代の請求について訴訟を起こしました。

◇判決
管理監督者に該当しない

◇要因
・店長と店員の業務内容に違いがなかった
・出退勤の際には必ずタイムカードの打刻を行っており、会社から出退勤管理を受けていた
・役職手当等、役職に応じた手当が支給されていなかった

名ばかり管理職のチェックリスト

 上記の判例からも分かる通り、役職等に就いている管理職は管理監督者に該当するとは限りません。管理監督者に当たるかどうかは、実際の業務実態や権限の内容によって決まります。
 そこで、チェックリストを作成してみました。以下に当てはまる管理職は、管理監督者に当たらない可能性が考えられます。

■職務内容や権限
・同じ部署に上司がいる
・部署の予算を決定する権利がない
・部下に業務を指示するような立場ではない
・採用に関わりがない
・採用に関わるが決定権はない
・部下の給与等、労働条件を決定する権限がない
・部下を配置転換や解雇出来ない
・部下がいない
・経営方針に関する会議に出席したことがない

■勤務について
・出退勤時間を自由に決められない
・タイムカードによって勤務状況を会社に把握されている
・会社に勤怠を報告する義務がある
・長時間残業を強いられる

■地位にふさわしい待遇
・部署の中で自分より給与が高い社員がいる
・管理職になる以前の残業代が出ていた時の方が、給与が高い
・役員手当がもらえない
・一般の社員と比較して給与に差がない

どんな管理職なら残業代が出る可能性があるか

 以上のチェックリストに該当しないにも関わらず、管理監督者に該当していないにも関わらず、管理監督者の待遇を受けている管理職のことを通称「名ばかり管理職」と呼びます。
 ここでは、名ばかり管理職に該当する可能性がある役職を4つ紹介します。名ばかり管理職の場合は、残業代が出る可能性があります。

係長・課長

 係長や課長の多くは、管理監督者に該当せず、名ばかり管理職に当たる可能性が考えられます。
 というのも、一般的に係長や部長は、部長等の上司の指示に基づいて働いていたり、自分の好きな時間に出退勤する権限がなかったり等、管理監督者の要件を満たしていない場合が多いためです。

部長

 部長の場合、権限の内容等によって、管理監督者と名ばかり管理職、どちらに該当するのかが変わります。既述の管理監督者の要件を満たしていない場合は、名ばかり管理職の可能性があります。

店長

 店長の場合、管理監督者と名ばかり管理職どちらに該当するかは、お店の規模によって変わるでしょう。

 多数の店舗があるチェーン店の店長の場合、本社や、一定のエリアを統括するマネージャーからの指示に従って業務を遂行することが多いでしょう。そのため、管理監督者に該当しないでしょう。
 一方で、店舗が1~数店舗といった小規模企業の店長の場合、権限の内容等によって管理監督者に当たるかどうかが決まります。というのも小規模企業の場合、店長が大きな権限を持っていて、管理監督者の要件を満たしている可能性が考えられるためです。

スタッフ職

 スタッフ職(専門的な知識や経験を活かして特定の業務を担当する職種)については、旧労働省の通達で「企業内における処遇の程度によっては管理監督者に該当する」と明記されています。
 つまり、スタッフ職の方でも、一定の権限を持っている場合は、管理監督者に該当するとされています。

終わりに

 管理職の残業が出ないことは、労働基準法で定められている「管理監督者は労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されない」が大きく関係しています。しかし、会社が定める管理職と管理監督者には大きな乖離が生じています。
 それが要因となり、不当に残業代が支払われないという事案が発生しています。過去の判例から見ても、管理職は管理監督者に該当しないという例が多く挙げられています。

 この記事をお読みである管理職の方も不当に残業代が支払われていない可能性があります。もしその場合は「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」をお読みになり、残業代請求を検討した方がよいかもしれません。

この記事の著者

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残業代請求弁護士ガイド 編集部

残業代請求に関する記事を専門家と連携しながら執筆中 ぜひ残業代請求の参考にしてみてください。 悩んでいる方は一度弁護士に直接相談することをおすすめします。 今後も残業代請求に関する情報を発信して参ります。

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