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着替えが労働時間の該当する場合とは:判例を基に解説

更新日:2024年02月07日
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 昨今の働き方改革で、長時間労働の是正がテーマになっています。それにより、どこからどこまでが労働時間に当たるのか、についてシビアになっています。とりわけ、労働時間に該当するかどうかが曖昧なのが、着替えの時間です。
 職場によっては、作業服や指定された制服に着替えなければなりません。その着替えが労働時間に該当するかどうかが争点になることは少なくありません。

 そこで、着替え時間は労働時間に該当するかどうかについてご説明させていただきます。

労働時間の定義

 着替えが労働時間に当たるかどうかを判断するまえに、まずは労働時間の定義を把握しなければなりません。
 労働時間の定義については、労働基準法32条で「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」といった内容の記述がされています。しかし、この内容だけでは、どのような状態が労働時間に該当するのかを理解するのが困難です、そのため、労働時間の定義は判例等から解釈する必要があります。

「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」とは

 「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」を以下の判例を基に解説させていただきます。

三菱重工長崎造船所事件(平成12年3月9日)最高裁判所第一小法廷

労働時間とは労働者が指揮命令下に置かれている時間をいい、客観的に判断する。
そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段のない限り使用者の指揮命令下に置かれたものと評価出来る。

 この判例は、工場の作業に入る前の「着替え・散水の時間が労働時間に当たるかどうか」が争われた問題でした。この判例を分かりやすく噛み砕くと以下のようになります。

作業に入る前の着替え・散水を社内で行うように、会社から命令された場合や社内でせざるを得ない場合は、特別な事情がない限り会社の指揮命令下に置かれたものとして扱う。
この行為が所定労働時間外で行うものとされている場合であっても同じである。

 結果、この判例では着替え・散水の時間が労働時間として認められました。
労働時間の定義は、やはり「指揮命令下に置かれている」かどうかが大きなポイントになってきます。
 それでは、「指揮命令下に置かれている」とはどのような状態なのでしょうか。

 この判例では、「➀会社から行うように命令されている」あるいは「②社内でせざるを得ない」のどちらかの場合、「指揮命令下の置かれている」としています。

労働時間に該当する可能性がある着替え

 では、「➀会社から行うように命令されている」あるいは「②社内でせざるを得ない」を満たしている着替えとは、どのようなケースを指すのでしょうか。いくつかの例を挙げてご説明させていただきます。

安全・衛生上、着替えなければならない

 安全・衛生上、指定された制服や作業服等に着替えなければならない場合、その時間は労働時間に該当する可能性があります。
 看護師を例に挙げて説明させていただきます。看護師は、仕事の性質上、衛生面に配慮して看護服に着替えなければなりません。ですので、病院から制服や作業服等への着替えを義務付けられていると見なすことが出来るでしょう。「①会社から行うように命令されている」と言える可能性が考えられます。

就業規則等に明示されている

 就業規則等に「従業員は特別の場合を除き、業務中は会社が貸与した所定の制服を着用しなければならない」といったように明示されている場合があります。
 その場合、「①会社から行うように命令されている」と見なることが出来るため、労働時間に該当する可能性は否定出来ません。

着替えることが黙示さている

 対して、着替えることが黙示されている場合は労働時間に該当するのでしょうか。
 例えば、指定された服の着用を怠ると会社から懲戒処分を受ける等のケースがあります。この場合、事実上「①会社から行うように命令されている」と言えるでしょう。
 そのため、労働時間に該当する可能性があります。

着替える場所を指定されている

 着替える場所を指定の更衣室等に限定されている場合、「②社内でせざるを得ない」と見なせるでしょう。そのため、その着替えは労働時間に該当する可能性があります。
 但し、着替える場所を指定されていない場合、その着替えは労働時間に該当しない可能性があります。

タイムカードを押してからの着替え

 タイムカードを押してから着替えるよう指定され、仕事を開始した時間からを労働時間と見なしているケースがあります。その場合、着替えの時間は労働時間に該当する可能性がります。
 というのも、タイムカードを押してから着替えるよう指定されていることで、事実上「②社内でせざるを得ない」に該当する可能性があるためです。

昼休み中に着替えるよう指定されている

 昼休みに食堂等に行く際、私服等に着替えなければならないと就業規則に定められている場合、その着替えは労働時間に該当するのでしょうか。
 この場合、就業規則に定められているため、「➀会社から行うように命令されている」に該当する可能性がります。
 そのため、労働時間に該当する可能性が考えられます。

就業規則に「着替え時間は労働時間に該当しない」と明記されている

 就業規則に「着替え時間は労働時間に該当しない」と明記されている場合は、どんな着替えも労働時間に該当しないのでしょうか。
 その場合、着替え時間が前出の①②に該当するかどうかが労働時間の該当の可否を左右します。就業規則に明記されている「着替え時間は労働時間に該当しない」は効力を発揮しないと言えるでしょう。

「着替え」=「労働時間」の判断がより明確になった事件とガイドライン

 上記のように着替えが労働時間に該当するかどうかの判断は簡単ではありません。その判断のカギを大きくに握っているのは、それぞれの着替えが前出の①②のどちらかに該当しているかどうかと言えます。
 ただ2017年に着替えが労働時間に該当するかどうかについて争われた事件と、厚生労働省が発表した労働時間の基準のガイドラインによって、どのような着替えが労働時間に該当するのかがより明確になりました。
 その2つをご紹介いたします。

イオンディライトセキュリティ事件

 イオンディライトセキュリティ事件では、「着替え及び朝礼に要した時間」が労働時間に該当するかどうかが問題になりました。その事件では、以下の判決が下りました。

労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内ですることを使用者から義務づけられ、またはこれを余儀なくされたときは、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労基法上の労働時間に該当すると解される。

 上記の判決により、着替えは労働時間に含まれるという考えが浸透する後押しになりました。

労働時間の適性な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

 2017年厚生労働省が発表した「労働時間の適性な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、以下のようなものは労働時間に該当すると明記されています。

① 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
② 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

まとめ:残業代に関する困りごとがあれば弁護士へ相談を

着替えが労働時間に該当するかどうかは、「指揮命令下に置かれている」かどうかが大きなポイントになっていることがお分かりいただけたでしょうか。
 もし、「指揮命令下に置かれている」着替えに該当するにも関わらず、労働時間と見なされていない場合は、未払いの賃金が発生している可能性があります。
 1日だけで考えてみるとその着替えは僅かな時間です。しかし、長い期間で考えて見ると多くの時間分の未払い賃金が発生しているかもしれません。

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