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残業代が支払われない「名ばかり管理職」という“魔の手”

2017年05月11日 公開
残業代が支払われない「名ばかり管理職」という“魔の手”のアイキャッチ

出世することは、かつて多くの人が働くうえで一つの目標にしていました。しかし、昨今では、いざ出世した人の中でこのような声を耳にします。

Aさん
「部長になったのは嬉しいし、やりがいはあるんですけど給料が減りました。」

Bさん
「店長になってから、任せられることも増えて仕事が楽しくなってきました。でも残業代が出なくなったのがちょっと…。」

このように管理職は、残業代が出ないのが当然という風潮があります。

そのような風潮になった大きな原因として「名ばかり管理職」が挙げられます。もし、あなたがこの「名ばかり管理職」に当てはまるのであれば、出るはずの残業代が支払われず、不当に残業をさせられている可能性があります。
そこで本記事では、「名ばかり管理職」について深掘りしていきたいと思います。

「名ばかり管理職」とは

 「名ばかり管理職」とは、十分な権限や待遇を与えられていない労働者が労働基準法で定められている「管理監督者(※次項で説明)」として扱われている管理職のことを指します。

 初めて「名ばかり管理職」という言葉が登場したのは、平成20年にマクドナルドの店長が、法律で規定のある「管理監督者」には該当せず未払い残業代の請求を求めた「マクドナルド事件」でのことでした。裁判所によって、この訴訟は未払い残業代の請求が認められる判決が下りました。

 事実上、管理監督者に該当しないにも関わらず、管理職扱いを受けていたことから、メディアが「名ばかり管理職」という造語を使った報道が発端となり、「名ばかり管理職」という言葉が一般にも浸透したと考えられています。

管理監督者の定義

 では、管理監督者とはどのような労働者のことを指すのでしょうか。「マクドナルド事件」をうけて厚労省(厚生労働省)は「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」という資料を発表しています。この資料によると、以下の内容を管理監督者の定義としています。

■会社の一定部門を統括する立場であること
■会社の経営に関与していること
■自分の仕事量や仕事時間を自身で決定できること
■給与面で十分に優遇されていること

 以上の定義を全てクリアしてはじめて、管理監督者に該当させることが出来ます。
管理監督者は、労働基準法で定められている「法定労働時間(1日8時間、1週40時間)以上の労働をした場合には、労働者に時間外割増賃金(残業代)を支給しなければならない」が適用除外になります。

 つまり、管理監督者は残業代を支給されない対象になるのです。

一般的な管理職

 一般的に管理職とは、部長や課長、係長等の役職に就いた労働者を指すでしょう。
 このような役職に就いている労働者は、上述の管理監督者の定義に該当せず、以下のように裁量がない方が多いです。

  • 社内で部門やプロジェクトチームについて統括する立場にない
  • 経営方針に対して一切の関与がない、もしくは関与出来ない
  • 決まった時間に出社するように命じられている
  • 忙しすぎて業務量が過多になっている
  • 給与に2,3万円程の少額の管理職手当が付くのみ

名ばかり管理職問題

 にも関わらず、部長等の役職に就いている労働者を、社内の立場的にも責任が強いことから管理監督者扱いにする会社は少なくありません。このことを通称「名ばかり管理職問題」と呼んでいます。
 この「名ばかり管理職問題」では以下のことが問題視されています。

【問題点①】休日出勤手当をはじめとした残業代の未払い

 まず一番に挙げられるのが、休日出勤手当をはじめとし残業代の払いでしょう。
本来、法律上の管理監督者に当たらない管理職の労働者を、会社独自の基準で管理監督者と見なし、残業代の支払いから免れているケースが多いのです。

また、役職手当と引き換えに、多くの残業を強いられている労働者も多いです。しかし、実情は雀の涙ほどの手当で、それに釣り合わない長時間労働をしているのです。

【問題点③】名ばかり店長

 一店舗を任される店長が「名ばかり管理職」になることが多い傾向にあります。確かに、店舗内では、人事に関する決定権等はありますが、会社の方針に関与出来ない等、仕事に対しての裁量は管理監督者とは程遠いです。
 にも関わらず、僅かな店長手当を支給されるのみで、それに見合わない長時間労働をさせられている「名ばかり店長」が多いのが現状です。

【問題点④】健康面での負担

 「名ばかり管理職」の労働者は、役職に就いていない方よりも労働時間が増加する傾向にあります。中には、管理職に任命されたことによる責任感から、自ら進んでサービス残業をする方も少なくありません。

 しかし、長時間労働が影響して、健康面に支障をきたすケースも発生しています。
 過去に、某ドーナツチェーン店の店長が労務管理に実権のない「名ばかり管理職」として長時間労働を強いられ、過労死した事件がありました。

【問題点⑤】大手企業で働く「部下なし管理職」

 大手企業では「部下なし管理職」と言われる労働者がいます。「部下なし管理職」とは、読んで字の如く、部下を持たないまま管理職になった労働者を指します。主に、長年培った専門性の高いスキルを持っていることから「専門課長」というポストを与えられている「部下なし管理職」が多いです。

 しかし、管理監督者としての実権がなく、僅かな役職手当で多くの残業を強いられているのが実情です。

・「ホワイトカラー・エグゼンプション」と「部下なし管理職」
 2014年6月、政府はアベノミクスの成長戦略の一環に「新たな労働時間制度の創設」として「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の新設を盛り込みました。
この制度では、管理監督者以外で、一定の年収要件を満たし職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者に対して、労働基準法で定められている「法定労働時間(1日8時間、1週40時間)以上の労働をした場合には、労働者に時間外割増賃金(残業代)を支給しなければならない」を適用除外とする、としています。

 比較的高収入で、専門性の高いスキルを持っている「部下なし管理職」の労働者は、このホワイトカラー・エグゼンプションに該当する可能性があると考えられています。

名ばかり管理職関連の判例

 以上ので挙げた問題が引き金となって、過去に裁判になった事例もあります。以下に列記させていただきます。

【判例①】サンド事件

 昭和58年に、工場で働く課長が管理監督者に当たらないとして、時間外手当の支払いについて訴訟を起こしました。

◇判決
管理監督者に該当しない

◇要因
・工場内の人事に関与はしていたが、権限はなかった
・勤務時間の拘束をうけていた
・工場の代表ではあったものの、会社の利益を処理するような権限までなかった

【判例②】ほるぷ事件

 平成9年に、出版会社の支店で勤務する販売主任が、管理監督者に該当しないとして、残業代の支払い義務の有無が争点になりました。

◇判決
管理監督者に当たらない

◇要因
・タイムカードのよる勤怠管理が行われていた。
・支店営業会議で決定権がなかった

【判例③】株式会社コナミスポーツクラブ残業代請求事件

 平成29年に、コナミスポーツクラブの元支店長の女性が、管理監督者に該当しなかったとして、未払い残業代の請求について訴訟を起こしました。

◇判決
管理監督者に当たらない

◇要因
・支店の人事に関する決裁権がなかった
・タイムカードによって勤怠管理をされていた
・役職手当は5万円程度であったが、昇進前より給料が下がってしまう等の逆転現象が起こり、十分な優遇がされているとは言えなかった

【判例④】SHOP99名ばかり管理職事件

 平成23年に、コンビニチェーン「SHOP99」の元店長が、未払い残業代を請求する訴訟を起こしました。

◇判決
管理職に該当しない

◇要因
・経営方針に関与していない
・勤務時間について裁量がなかった
・役職手当等の優遇が十分ではなかった

「名ばかり管理職」に当てはまる条件

 さて、ここまでお読みになったあなたも「名ばかり管理職」である可能性も否定出来ません。
そこで、「名ばかり管理職」に当たる条件を作ったので、チェックをしてみてみましょう。以下に当てはまるようであれば、あなたも「名ばかり管理職」かもしれません。

・自身が在籍する店舗・支店内での決裁権はあるが、本社の経営方針に関する会議には参加出来ない

・経営陣からの指示等をそのまま部下に伝えている

・採用は一次面接等と途中までは担当するが、最終的に採用の決定は上司や経営陣が行っている

・実務上はリーダーではあるが、部下の評価や人事異動には関与していない

・出勤・退勤時間が決められている

・始業時刻に遅れたら給与から差し引かれてしまう

・残業代をもらっている部下の方が賃金の総支給額が多い

・役職手当が5,000円や10,000円と少額である

 以上のいずれか1つでも該当するようであれば、「名ばかり管理職」の疑いがあります。半分以上当てはまるようであれば、その可能性は高いと言えるでしょう。

未払いの残業代があった場合の対策

 前項のチェックで当てはまるものがあり、「名ばかり管理職」の疑いがあるようであれば、どのような対策をとればよいのでしょうか。
ここでは、その対策方法を見ていきます。

(1)会社と穏便に話し合う

 会社が法的の知識に乏しく、悪意を持って「名ばかり管理職」にしたわけではない可能性も考えられます。まずは、一番身近の上司に自身が法律上の管理監督者に該当しないことを説明し、今後は、役職に就いていない社員と同様に割増賃金を支払ってもらうよう、穏便に話し合いを進めてみましょう。

(2)会社が聞く耳を持たなければ労働基準監督署に相談

 上司の相談をしても、聞く耳を持たないようであれば、勤め先の会社を管轄する労働基準監督署へ相談するというのも一手です。

 相談をし、労働基準法違反があるかもしれないという判断が下れば、労働基準監督署は、会社を調査し、もし違反の事実が明確になれば会社に指導や是正勧告が出されます。

 すると、会社は自主的に、労働環境を改善したり未払い残業代の支給をしたりする場合があります。

残業代請求

 未払い残業代を請求するという方法もあります。
 そのためにはまず、証拠集めが必要です。これは、立証責任(確実な証拠で証明する責任)が請求者にあるためです。
 一般的に証拠として以下のものが証拠になるでしょう。

・タイムカード
・日報
・業務メール
・シフト表

 まずは、以上の証拠になるものを入手したうえで、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」を読んでみて下さい。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

まとめ

もしかして、あなたも「名ばかり管理職」に当てはまっていて、支給されるはずの残業代が支払われていないかもしれません。ぜひ、この記事を読んで検討してみてください。

 また、「名ばかり管理職」に該当しない場合でも、不当に残業代が支払われず、長時間労働をさせられているケースもあります。その場合は「裁量労働制」、もしくは「みなし残業制」で不当に残業代を支払われていない可能性が考えられます。
 詳しくは以下をご覧ください。

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