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トラック運転手と労働基準法の改正:「荷待ち時間」=「休憩時間」ではない

更新日:2024年02月13日
トラック運転手と労働基準法の改正:「荷待ち時間」=「休憩時間」ではないのアイキャッチ

最近、某大手宅配業が、社員である宅配ドライバーを、違法に長時間労働をさせていたことが発覚し、話題にのぼりました。この件がきっかけとなり、政府は、トラック運送業の長時間労働を問題視するようになりました。

 都内の運送会社に勤める長距離トラックドライバーAさんは、運送業の長時間労働について、以下のように話をします。

「トラック運送業の9割以上は中小企業で、荷主に対して立場が弱い。荷主から『朝7時に工場に必着』と指示をされ、その時間に行ったとしても、すぐに荷物を積み込んで出発出来るわけではありません。必ず、積み込み待ち、降ろし待ちといった荷待ち(待機)時間が発生します。
 積み込みまで1,2時間待機なんて日常茶飯事です。物流施設内で多くのトラックが列をなしている時は、4,5時間も待たされることがあります。それでも、荷主から“待機料”や追加料金は一切支払われないので給料に反映されることもありません。こうした慣行が長距離ドライバーのサービス残業の温床になっています。」

荷待ち時間が多いことから、労働時間が長引き、Aさんのようにサービス残業をさせられているトラック運転手は多いようです。
そこで今回は、トラック運転手のサービス残業を、労働時間と荷待ち時間を説明していくことで紐解いていきます。

トラック運転手と労働基準法の改正

まず初めに、トラック運転手の労働時間について説明をしていきます。

冒頭でも述べましたが、某大手宅配業者のように過酷な長時間労働の実態が問題になったことを発端に、労働大臣が、トラック運転手を対象にした「改善基準告示」を発表しました。これにより、トラック運転手はトラック運転手用に改正された労働基準法が適用されます。
現在はこの内容に基づいて、トラック運転手の労働時間が規定されています。

拘束時間について

改善基準告示では、トラック運転手の1日の拘束時間は、13時間と定められています。もし延長する場合でも最大16時間までです。15時間を超える回数は1週間につき2回までという規定があります。
 拘束時間には、運転や整備、荷扱い時間と荷待ち時間に加え、運転途中での休憩や仮眠も含まれます。

休息期間について

 拘束時間が終わってから、次の仕事がスタートするまでの時間を休息期間といいます。1日の休息期間は、継続して8時間以上必要と定められています。
例にすると、以下の表になります。

トラック運転手の拘束時間と休息期間の5つの例

トラック運転手の拘束時間と休息期間の関係
5つ例があるうち、上3つは、次の日の始業時間まで8時間以上、間が空いています。つまり、休息期間の規定である「継続して8時間以上」を満たしています。
しかし、下2つは、休息期間が7時間のため規定違反になります。

休日

トラック運転手の休日とは、「休息期間+24時間の連続した時間」のことをいいます。いかなる場合であっても、この時間が30時間を下回ってはならないとされています。
例にすると、以下の表になります。

トラック運転手の休日の良い例とダメな例

トラック運転手の拘束時間と休息期間の関係

荷待ち時間と休憩時間

 以上の、改善基準告示の規定があることから、会社は残業代を抑えるために、荷待ち時間を休憩扱いにしていることがあります。
 休憩扱いにする一つのやり口として、運転日報に「荷待ち時間」を「休憩」と書かせます。
 しかし、労働基準法で、労働時間は「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」とされています。つまり、会社の指示があれば、直ちに働ける状態である荷待ち時間は、労働時間に該当するのです。
 そのため、荷待ち時間を労働時間にしないことは、違法になる可能性があります。

トラック運転手の違法残業は危険

 トラック運転手の長時間労働は、デスクワーク等の仕事とは異なり、以下のようなことにつながる恐れがあり、とても危険です。

・長時間労働によって睡眠不足となり、居眠り運転をしてしまう
・長時間労働を早く終わらせようと焦って、スピード違反を犯してしまう
・長時間運転のストレスから、わき見運転が生じる

トラックは死傷者を伴う重大な交通事故につながる可能性があるといえます。そのため、運送会社の違法残業は非常に危険な行為なのです。
交通事故等を未然に防ぐために、改善基準告示が発表された平成28年以降、労働基準監督署は監視を強めています。それにより、送検されるケースは多く、特に悪質な場合は、逮捕されることさえあります。

運送会社の送検ケース

トラック運転手

運送会社が、違法残業で送検された事例として以下があります。

A社(福岡県福岡市)平成28年12月1日送検
36協定を超過する違法な長時間労働を行わせ、労働基準法第32条違反容疑
・労働者は平成27年10月、運転中に脳梗塞を発症
・1ヶ月あたり132時間に及ぶ長時間残業が恒常化
B社(大阪府東大阪市)平成28年12月12日送検
・支社で、36協定を締結せずに長時間労働を強要
・運転手が労災による脳溢血(のういっけつ)で死亡
・労働基準法第32条違反容疑で、B社とその代表者を送検
C社(栃木県鹿沼市)平成28年10月12日送検
・ドライバーの死亡を契機として調査が開始
・会社と新潟営業所長を書類送検
・健康診断を実施しておらず、労働安全衛生法違反も責任追及

A社で働くドライバーが、運転中に脳梗塞を発症してしまったように、他の送検ケースでも、業務中に、くも膜下出血、脳出血の脳の病気や、虚血性心疾患等の心臓の病気になってしまうことがあります。
病気の発症による労災申請がきっかけで、運送会社の違法残業が発覚することが多いのですが、心身を壊してからでは手遅れです。

ドライバーの残業代請求には、証拠の確保が最重要

長時間労働を強いられていたり、荷待ち時間を休憩扱いにされていたりするのであれば、トラック運転手はサービス残業をさせられている可能性があります。交通事故等の、大事になる前に、未払い残業代の請求を考えた方がよいでしょう。

未払い残業代を請求するためには残業をした証拠が必要です。これは、立証責任(確実な証拠で証明する責任)が請求者にあるためです。
ドライバーは、タイムカード等で労働時間が管理されていないため、代わりに以下のものが残業証拠として挙げられます。

・デジタルタコグラフ(自動車運転時の速度、走行時間、走行距離等の情報を、メモリーカードに記録するデジタル式の運行記録計)
・日報・週報
・手帳等の記録

まずは、以上の証拠になるものを入手したうえで、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」 を読んでみて下さい。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

労働問題に関する困りごとは弁護士へ相談を

荷待ち時間を労働時間扱いにされず、サービス残業をしているトラック運転手は少なくありません。無理にでも長時間労働をしている運転手もいるでしょう。

過度な残業があるのであれば、未払いの残業代を請求してみるのも一つの手です。

状況が悪化する前に、早めに信頼のおける第三者に相談する必要があるでしょう。

そこで頼りになるのが「弁護士」の存在です。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、労働上で起きやすいトラブルを未然に防いでくれます。

労働トラブルに詳しい弁護士に事前に相談しておくのがおすすめです。

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