残業代請求弁護士ガイド

残業代請求専門の弁護士検索・法律相談ポータルサイト

会社が言う「管理職だから残業代は出ない」は疑おう

更新日:2024年03月19日
会社が言う「管理職だから残業代は出ない」は疑おうのアイキャッチ

「管理職だから残業代は出ない」

この言葉の通り、管理職は残業代が出ないのが当然という風潮があります。しかし、管理職は本当に残業代が出ないのでしょうか。
 今回はこの疑問について紐解いていきます。

一般的な「管理職」の概念

 管理職といえば、主任や部長等の役職に就く労働者を指すことが多いです。この管理職に任命するかどうかの判断基準は、会社によってまちまちです。
 「管理職だから残業代は出ない」という言葉は、法律で厳密な条件によって定められている「管理監督者」からきています。つまり、それぞれの基準で任命した管理職を管理監督者扱いにしている会社は少なくないのです。

「管理監督者」とは

 「管理監督者」は、労働基準法41条で以下のように定義されています。

(労働時間等に関する規定の適用場外)
第41条 この章、第6章及び第6章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号に該当する労働者については適用しない。
1. 別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3. 監督又は継続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者

 この定義を要約したものが下記に2つになります。

①「管理監督者」とは「監督もしくは管理の地位にある者」を指す
②労働時間や休憩、休日に関する労働基準法の規定が適用されない

それぞれを細かく解説させていただきます。

①「管理監督者」とは「監督もしくは管理の地位にある者」を指す

 「管理監督者」を指す「監督もしくは管理の地位にある者」とは、一体どのような労働者のことをいうのでしょうか。
 過去の判例のよると、以下の4つの観点を押さえている労働者を「監督もしくは管理の地位にある者」としています。


(1)一定部門等を統括する立場である
(2)会社経営に関与している
(3)労働時間や仕事を自身でコントロール出来る
(4)給与面で優遇されていること

→「監督もしくは管理の地位にある者」については、こちらでさらに詳しく説明をしています。

 上記⑴~⑷の全てを満たしていない場合は、管理監督者に当たらない可能性が考えられます。

②労働時間や休憩、休日に関する労働基準法の規定が適用されない

 管理監督者は、労働基準法で定められている労働時間や休憩、休日の規定が適用されません。

⑴労働時間の上限

  労働基準法32条において、労働者は 1日8時間、1週40時間を超えて労働することは、原則として禁止されています。但し、労使間(労働者と会社の間)で36協定を締結することで、その時間を超えて労働することは可能です。

→36協定については、こちらで詳しく説明をしています。

 しかし、管理監督者にはこの労働時間の上限が適用されません。したがって、1日8時間、1週40時間を超えて長時間労働をしたとしても残業代が発生しないのです。

⑵休憩に関する規定

 労働基準法34条では休憩について、 1日6時間を超えて労働する場合には45分以上、8時間を超えて労働する場合は60分以上の休憩をとらなければならないという規定があります。
 しかし、管理監督者はこの規定が適用されません。たとえ8時間以上、休憩をとらずに働き続けても法律違反にはならないのです。

⑶休日に関する規定

 労働基準法35条で、毎週少なくとも1日の休日をとらなければならないという規定があります。
しかし、管理監督者はこの規定が適用されません。そのため、1週間休みなく働き続けても労働基準法違反にはならないのです。また、休日出勤したとしても休日手当等も発生しません。

 よって上記①と②でご説明させていただいたことを、まとめると「監督もしくは管理の地位にある者」に該当しないものが、労働時間や休憩、休日の上限を超えた長時間労働をしているようであれば、サービス残業をさせられている可能性が考えられます。

また、就業規則や雇用契約書で「監督もしくは管理の地位にある者は、〇章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」等と明記されていたとしても、実際の立場が「監督もしくは管理の地位にある者」に該当しないようであれば、違法に残業をさせられている可能性があります。

「名ばかり管理職」と厚生労働省

 管理監督者に当たらないのに管理監督者扱いとされている労働者のことを通称「名ばかり管理職」といいます。この「名ばかり管理職」は2010年頃社会的な大きな問題になりました。

 この問題については、厚生労働省が「肩書きを盾に安い賃金で長時間労働を強いることがあってはならない」として、「管理監督者を否定する判断要素」として以下①~③の通達を出しています。

① 【職務内容や権限】:重要な要素として「パートやアルバイト等の採用権限がないこと」や「パートらに残業を命じる権限がないこと」
② 【勤務時間】:重要な要素として「遅刻や早退をした場合に減給等の制裁があること」。補強要素として「長時間労働を余儀なくされるなど、実際には労働時間の裁量がほとんどないこと」
③ 賃金は、重要な要素として「時間あたりの賃金がパートらを下回ること」、補強要素として「役職手当等が不十分なこと」

この通達により、大手企業では改善が進んでいます。
 しかし、中小企業等の一部の会社では、残業代の支給から免れるために管理職の肩書を与え、「名ばかり管理職」として残業代を支給しないというケースは少なくないのです。

「名ばかり管理職」がいる理由

 では、なぜ企業には「名ばかり管理職」がいるのでしょうか。
その理由は、下記のメリットがあるためです。

・管理職に任命することで労働者が今まで以上に頑張ってくれる
・安い賃金で長時間労働をさせ、人件費を抑えることが出来る

→「名ばかり管理職」にするメリットについてはこちらで詳しく説明をしています。

 これらのメリットがあることから、「名ばかり管理職」が社会問題になるほど増加したのです。

「名ばかり管理職」になりがちな役職・勤務形態

 それでは、実際には、どのような役職に「名ばかり管理職」が多いのでしょうか。以下の役職や勤務形態に「名ばかり管理職」が蔓延っています。

主任・係長・課長・部長

 主任や係長、課長、部長等には「名ばかり管理職」は多いです。これらの役職は、1つの部門や部署を統括する立場にあるため一見、管理監督者と見なされがちです。しかしその実情は、会社の経営会議には参加していなかったり、出勤時間が決まっていたり等、管理監督者とはいえないケースが多いです。
 たとえ、給与に役職手当がついていたとしても、違法に残業をさせられて可能性は十分にあるでしょう。

嘱託社員

嘱託(しょくたく)社員に残業代を支払わない企業も少なくありません。
嘱託という言葉には「仕事を依頼する」という意味があり、主に専門スキルを持った労働者(例えば、医師や弁護士等)が嘱託社員と呼ばれています。

その専門性の高さから嘱託社員は、管理監督者に任命されることが少なくありません。しかし、嘱託社員の業務内容は、管理監督者からかけ離れているケースがあります。
業務内容が、監理監督者に相応しない場合には「名ばかり管理職」かもしれません。

派遣社員

 派遣社員の方でも、「名ばかり管理職」になっているケースがあります。
 よくあるのが、労働時間の裁量が与えられていることから管理監督者と見なされているケースです。しかし、担っている業務が管理監督者でないことが少なくありません。

年俸制

 年俸制は、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ決められた給与のみ支払えばよいわけではありません。法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて労働をした場合は、年俸とは別に、残業代を支払わなければなりません。
 業務内容が管理監督者ではない年俸制の労働者は、残業代を支給してもらう義務があります。

店長

 飲食店や小売店で働く店長も「名ばかり管理職」のケースが多いです。店舗を統括しているという観点からいうと、管理監督者と見なせるでしょう。しかし、多くの店長は、労働時間の裁量がなかったり、僅かな店長手当を支給される代わりに、それに見合わないほどの長時間労働をさせられていたり等、管理監督者から大きく逸れているケースが散見されています。
そのため、このような店長は残業代を支払わなければなりません。

管理監督者でも残業代が発生するケース・しないケース

 前項では、「名ばかり管理職」であれば残業代は発生するということをお伝えさせていただきました。
 一方、管理監督者であった場合も残業代が発生するケースがあります。

深夜労働

 管理監督者でも深夜労働(22:00~5:00)をすれば、深夜手当が支給されなければなりません。
但し、管理監督者には、役職に就いていない労働者の場合とは計算方法が異なります。「一時間あたりの賃金」の25%分が深夜手当として、支給されます。

→「1時間あたりの賃金」の計算方法についてはこちらで詳しく説明をしています。

また、雇用契約書や就業規則に「管理職の給与には一定の深夜労働手当を含める」旨が記載されている場合は、その時間分の深夜手当は出ない可能性が考えられます。

休日出勤

 監理監督者が休日出勤した場合は、残業代が発生しません。しかし、深夜労働をした場合に関しては、先述した通り深夜手当が支給されなければなりません。
 また、「名ばかり管理職」であれば休日出勤をすると残業代が発生します。

→「名ばかり管理職」の休日出勤についてはこちらでも詳しく説明をしています。

出向先での残業

 では出向先で残業をした場合は残業代は出るのでしょうか。この場合は、出向先でどのような業務を担っているかがポイントです。
 管理監督者であっても、出向先で一般業務をしているようであれば、管理監督者扱いにはなりません。そのため、残業代が発生します。
 対して、出向先でも管理監督者の立場ならば、残業代は発生しないでしょう。

遅刻・早退について

 企業によっては、管理監督者に該当する労働者に対し、遅刻・早退した場合は減給処理をする企業があります。
 しかし、管理監督者とは本来、自ら出勤・退勤時間を決めることが出来る等、労働時間を自身でコントロール出来る労働者を指します。

 したがって、管理監督者に対して遅刻・早退のよる減給処理はされません。
 もし、減給処理はされるようであれば、そもそも管理監督者ではなく「名ばかり管理職」の可能性を疑った方がよいかもしれません。

管理監督者であるかどうかが争われた判例

 過去には、管理監督者であるかどうかが争われた裁判がありました。その判例として有名なのが、平成18年の「日本マクドナルド事件」です。
 この事件は、マクドナルドで働く店長が「管理監督者」に該当しないとして、時間外労働賃金について裁判を起こした事件です。
以下の3点から「管理監督者」に当たらないという判決が下りました。

⑴ 長時間労働をせざるを得ないことから仕事量の裁量がない
⑵ 会社の経営方針等の決定に関与していない
⑶ 店舗運営で重要な職務を担っているものの、権限は店舗内のことに限られている

違法に残業をさせられている場合の対応策

以上の判例を参考に、管理職として働いている方の中で、自分は「管理監督者」に当たらないのではないか、と不安に感じている方は以下のことを中心に考えてみてください。

・会社内で部門やプロジェクトチームについて統括する立場でない
・経営方針に一切の関与をしていない
・出勤時間が会社から定められている
・業務過多になっていたりする
・管理職手当に見合わないほどの長時間労働を強いられている
・役職等に就いていない時と給与が変わらない

 以上の点をチェックしたうえで、管理監督者に該当していると判断出来るのであれば残業代は発生しないでしょう。しかし、管理監督者に該当していないと判断出来る場合は、違法に残業をさせられている可能性が考えられます。
 この場合の対応策としては、以下の3つがあります。

【対応策①】就業環境を改善してもらうように交渉する

 会社の人事担当者に、違法に残業をさせられている可能性があることを相談してください。そこで残業代が支払われない就業環境を改善してもらうように交渉をしましょう。

 安い賃金で働き続けることは、労働者にとって「よい」とは言えません。一見、会社のためになると思いがちですが、長い目で見ると会社のためにもならないのです。そもそも、違法に従業員を働かせないと経営が成り立たないような会社が長い間存続するとは考えられません。

【対応策②】未払いの残業代を請求する

 違法な残業をさせられているようであれば、会社に対し、未払いの残業代を請求することが出来ます。未払いの残業代を請求する場合は、まずこちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」を、お読みください。残業代請求に向けてするべきことがお分かりいただけるでしょう。

【対応策③】労働基準監督署に申告する

 労働基準監督署に申告するという手段もあります。労働基準監督署に申告をすると、必要な調査が行われ、その結果未払いの残業代が支払われることもあります。

→労働基準監督署についてはこちらの記事で詳しく説明をしています。

残業が出ない公務員

 最後に、「名ばかり管理職」とは毛色が異なりますが、公務員の残業についても少し触れさせていただきます。
 公務員の給与は税金から支払われているため、予算が決められています。もちろん、残業代もこの予算内から支給されます。
 したがって、例えば地方公務員は課によってその年の残業代の予算があり、その範囲の残業代しか出せない仕組みになっている。
 そのため、管理監督者と同様、働いた時間分の労働賃金が支払われないケースもあるのです。

→公務員の残業代についてはこちらで詳しく説明をしています。

残業代に関する困りごとは弁護士へ相談を

管理監督者に該当するには要件があります。そのため、管理監督者は社内でも限られた人になるのです。もし、上司等から「管理職だから残業代が出ない」と言われ長時間労働を強いられているのであれば、会社を疑った方がよいかもしれません。

本記事を参考に管理監督者との相違が大きいようであれば、残業代の請求を検討してみてください。

そこで頼りになるのが「弁護士」の存在です。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、労働上で起きやすいトラブルを未然に防いでくれます。

労働トラブルに詳しい弁護士に相談し、自分の身を守りましょう。

弁護士費用が不安な方は"弁護士保険"の加入がオススメ

弁護士に相談する前に、弁護士費用が不安な方はベンナビ弁護士保険の利用を視野に入れてみましょう。

あらかじめトラブル発生する前に弁護士保険に加入しておくことで、いざという時の高額な弁護士費用を補償してくれます。

弁護士保険なら月々2,250円〜加入できるベンナビ弁護士保険がオススメです。

この記事の著者

編集部の画像

編集部

中立的な立場として専門家様と連携し、お困りの皆様へ役立つ安心で信頼出来る情報を発信して参ります。

この記事を見た人が見ている記事

サービス残業って違法じゃないの?強要されても請求は可能?の画像

2019年07月02日 残業代請求弁護士ガイド 編集部

もし労働基準監督署に相談することを検討しているなら、弁護士が解決してくれるの画像

2019年07月02日 古閑 孝 (弁護士)アドニス法律事務所

労働時間の定義を知って違法残業を見抜こうの画像

労働時間の定義を知って違法残業を見抜こう

2020年05月26日 古閑 孝 (弁護士)アドニス法律事務所

ベンナビ弁護士保険