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「残業代ゼロ法案」とは?いつから始まる?

更新日:2019年06月04日
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あなたは「残業代ゼロ法案」の詳細についてご存知でしょうか?法案名を聞いただけだと、残業代をゼロにするための何かをするんだろうな、という印象でしょう。
但しこの「残業代ゼロ法案」、非常に奥が深いものなのです。
 本記事では、「残業代ゼロ法案」を深掘りしていきたいと思います。

「残業代ゼロ法案」とは

メディア等では、「残業代ゼロ法案」といわれていますが、正式名称は高度プロフェッショナル制度です。
なぜ、「残業代ゼロ法案」といわれるようになったのでしょうか。その答えは高度プロフェッショナル制度を紐解いていくと見えてきます。

正式名称は高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度の内容を端的にいうと、年収1,075万円以上の高度な専門業務に就いている労働者を、残業代の支払い対象から除外しようとするものです。
この内容に対し「いくら働いても残業代が出ない法案じゃないか!」と批判が集中し、「残業代ゼロ法案」と揶揄されるようになったのが始まりです。

高度プロフェッショナル制度が提案される目的は、長時間労働を防ぎ、働いた「時間」より「結果」に対して支払うという制度を目指すためです。
つまりは、「量」ではなく「質」に対して給料を支払うという制度です。

例えば、今まで固定給が60万円と決まっていて、定時を超えたら残業時間に対して残業代が発生するようになっていました。しかし、残業代ゼロ法案では、〇〇が完了したら+10万円、〇〇の提案をしたら、+5万円といったように成果に対して報酬を支払われることになります。

そのため、今まで残業代が目的でワザとダラダラ仕事をしていた人は、長く働いたとしても、賃金が変わらないので、早く仕事を終わらせて帰ろうと努力するのではないかと想定されます。

しかし、これは新しい考え方というわけでもなく、今までも「固定残業代」や「管理職手当」、「成果報酬」、「歩合制」等、様々な働き方が存在します。そして、それらの働き方は、ブラック企業が法の隙間を縫って、労働者にサービス残業をさせるようになり問題となっています。

高度プロフェッショナル制度が生まれた背景

 ではなぜ、政府は既視感のある高度プロフェッショナル制度を推し進めているのでしょうか。その理由は、日本人の労働生産性の低さにあります。

 2015年、日本の労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟国35ヶ国の中で22位となっており、経済危機に瀕していると騒がれたギリシャよりも1ランク低い順位になっています。
 また、G7(主要先進7ヶ国)の中では、調査が始まった1970年以降、ほぼ最下位をキープしているのです。アメリカの労働生産性の約6割程度に留まり、日本人労働生産性の低さが露呈された結果になっています。

 人口減少が進む中、日本人の労働生産性の向上は急務であると言えるのです。

 そこで政府は、労働時間に応じて支給される給与体系に着目しました。その体系をなくし、労働者1人ひとりが生んだ成果や労働の質に対して給与を支払う、という方針に転換したいという狙いが、高度プロフェッショナル制度にはあるのです。

高度プロフェッショナル制度の内容

 それでは高度プロフェッショナル制度の内容について深掘りしていきたいと思います。

【内容①】対象者

 高度プロフェッショナル制度の対象者は、下記の「年収」「職種」「具体的な指示を受けていない」を全て満たしている者です。

[対象①]年収

 前出している通り、対象者は年収1075万円以上とされています。この年収額は「平均給与額の3倍相当を上回る水準」を目安に定められました。

[対象②]職種

 高度プロフェッショナル制度が対象となる職種は、高度な専門職であると既述している通り、具体的には下記5つの職種が挙げられます。

・金融ディーラー
・アナリスト
・金融商品開発
・コンサルタント
・研究開発

 上記の職種は、労働時間と成果の関連性が高くない職種です。
 上記の職種の労働者でも、職種外の業務を兼任する者は対象外となります。例えば、金融ディーラーでありながら、営業や事務等の業務を兼任している場合は対象外になります。

[対象③]具体的な指示を受けていない

 会社から具体的な指示を受けていないという場合も、対象者の条件に含まれます。
 「具体的な指示」とは、どのような指示のことを指すのでしょうか。厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署が公表している「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」には具体的な指示は下記のような状態を指す、という内容が明記されています。

・会社が労働時間を決めている 【例】始終業時間の指定、深夜・休日労働の指示等
・会社が業務の時間配分をコントロールしている

【内容②】導入するためにはある2ステップが必須

 上記の対象者に該当しても、高度プロフェッショナル制度は適用されません。というのも、高度プロフェッショナル制度を導入するためには「労使委員会の許可」と「労働者の同意」が必要なのです。

労使委員会の許可

 まずは、労使委員会に許可を取ります。労使委員会とは、経営者と労働者の代表で構成される委員会のことをいいます。
 以下の10項目について話し合い、委員の5分の4以上の賛成を得ると労使委員会の許可を取ることが出来ます。

①対象業務 労働者に就かせる業務を明確にする
②対象労働者の範囲 業務内容や職位、求める成果について書面で明確にし、基準平均給与額の3倍(1075万円)を上回る年収基準を定める。
③対象労働者の在社時間の把握 在社時間を把握するため、タイムカード記録等の客観的な方法を選択する
④休日の確保 年間104日以上、かつ、4週4日以上の休日を与え、取得の手続き方法を定めること。
⑤対象労働者の健康確保措置 インターバル確保・深夜業制限、1ヶ月または3ヶ月の在社時間の上限措置、2週間連続の休日、臨時の健康診断、のいずれかを選択する。業務ごとに措置を変更することも可。
⑥対象労働者の在社時間の状況に応じた健康確保措置 在社時間の状況に応じて、⑤で選択した以外の3つの中から1つ、もしくは、厚生労働省で定める措置のどちらかを選択する。
⑦同意の撤回 同意の撤回に関する手続方法を決める。なお、同意撤回をした人への不利益は禁止
⑧対象労働者の苦情処理措置 苦情を申し出やすい仕組みを整え、手続き方法を決める。
⑨不利益扱いの禁止 同意をしなかった労働者に不利益な取扱いをしない
⑩その他厚生労働省令で定める事項 決議の有効期間は自動更新とはせず、期間を設けること等

参考元:https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000377392.pdf

[ステップ②]労働者が制度適用に同意する

 2ステップ目はプロフェッショナル制度を適用する労働者の同意です。プロフェッショナル制度を拒否する労働者には適用は不可能です。
 また、適用後に、労働者から適用拒否の申出があればプロフェッショナル制度の撤回が可能です。

高度プロフェッショナル制度はいつから?

 ところで高度プロフェッショナル制度はいつから施行されるのでしょうか
 2015年4月、高度プロフェッショナル制度は閣議決定されました。
 あれから4年。実は、2019年4月に働き方改革関連法が施行されたのと同時に高度プロフェッショナル制度はスタートしています。

高度プロフェッショナル制度のデメリット

 ただ、今もなお高度プロフェッショナル制度には多くの反対意見が寄せられています。それは次に挙げる多くのデメリットが考えられているためです。

【デメリット①】成果の割に低賃金

最初の実施は年収1,075万円以上の高度な専門業務に就いている人が対象とされていますが、のちに企業の労働組合から申請があれば、一般企業でも残業代ゼロ法案を取り入れることが出来るとされています。
そうなれば年収が少ない労働者に対しても高度プロフェッショナル制度を利用できるようになるので、成果の割に賃金が見合っていないという事態が発生しかねません。

【デメリット②】残業代の概念がなくなる

今までは、労働者が「働いても、働いても給料が変わらない」と不満にならないように残業代というものが存在しました。しかし、「成果=賃金」になることで、残業代という概念がなくなってしまいます。

つまりは「働いても、働いても給料が変わらない」という事態になりかねません。高度プロフェッショナル制度では、法的にそれを守ってくれるものがなく、「仕事するのが遅くて長く働いているあなたが悪いんでしょ?」という不平等さが生まれる危険性があります。

【デメリット③】評価基準が難しくなる

今までは、「〇〇時間働けばいくら」と、誰しも平等な「時間」を国単位で基準にしていました。しかし、「成果」を基準にすると新たな問題が生じます。それは、例えば「A社では、〇をすると給料10万円なのに、B社では同じことをしても給料5万円にしかならない。」といったような企業間での給与のズレです。
「時間」と違い「成果」で基準を決めることは非常に難しい部分があるのです。

【デメリット④】事実上の労働時間規制の撤廃

 現在、労働者は労働基準法で定められている法定労働時間(1日8時間、1週40時間)によって、労働時間が保護されています。
 しかし、高度プロフェッショナル制度が適用されれば、事実上、労働時間の規制が撤廃されると言えるでしょう。

 それにより、長時間労働が助長されるデメリットがあると考えられているのです。

高度プロフェッショナル制度のメリット

高度プロフェッショナル制度はデメリットがある一方で、メリットもあります。具体的には下記の3つが挙げられます。

【メリット①】短い時間・労力で質の高い経済成長

高度プロフェッショナル制度が目指すものは、「短い時間と労力で質の高い経済成長を」というものです。それを目指す背景には、昨今、話題にもなった某有名運送会社の「サービス残業問題」だったり、某有名広告会社の「過労死問題」だったり、「日本人は働き過ぎ」という風潮を改善したいという考えがあるようです。

今までは、働いた時間が長い人が評価される傾向がありました。しかし、本来は会社への貢献度や成果に対して評価されなければなりません。
貢献度や成果に対して正当な評価がされるようになれば、短い時間・労力で質の高い経済成長が実現出来る、と政府は予想しています。

【メリット②】ダラダラ働く労働者が減る

今までは「長く働く=給料が高い」という構図になっていたため、残業代目的であえて残業をするためにダラダラと働く労働者がいました。
しかし、前述の会社への貢献度や成果に対して評価がされるようになれば、「貢献度や成果=給料が上がる」という構図になります。それにより、高度プロフェッショナルはダラダラ働く労働者は減ることが期待出来ます。

【メリット③】残業時間の削減

 会社への貢献度や成果に対して賃金が支払われるようになれば、多くの労働者が働く時間を短くしようと努力すると予想されます。
それにより、「効率的に働き、残業がないように帰ってもらいつつも、会社は適正な賃金を払い、労働者は求められたパフォーマンスをして経済的に成長する」に繋がるということを政府は期待しています。

【メリット④】時間に縛られない働き方が出来る

 「○時から○時まで働かないといけない」ということはなくなり、働く時間を個人が自由に決められるため、時間に縛られない働き方が出来ます。
 例えば、育児・介護をしている方は「短時間正社員」という働き方も可能になるでしょう。

終わりに

高度プロフェッショナル制度はデメリットの面が目立ち、強く反対されています。しかし、「時間」ではなく「成果」に対して賃金が支払われる高度プロフェッショナル制度の考え方は、「残業代ゼロ法案」と否定的に揶揄されるものではないのではないでしょうか。

「ダラダラ働けば多くの給与を得られる風習」から「より大きな成果を上げた人が評価されて給与が増える」という、”本来あるべき給与体系”に向かっていくように考えられます。

ともなれば、高度プロフェッショナル制度は新たな時代の幕開けとも言えるかもしれません。

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