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「年俸制は残業代が出ない」はウソ!年俸制でも残業代は発生する!

更新日:2021年10月13日
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プロスポーツ選手や、成果主義の外資系企業で採用されることが多い「年俸制」という給与形態。近年では、働き方の多用化によって国内系企業も年俸制を採用する企業が増えています。
そんな中、プロスポーツ選手の「年俸制」のイメージが強いためか、「年俸制には残業代は出ない」と認識しているビジネスマンが少なくありません。

 しかし、それは誤った知識です。年俸制でも、残業代が発生するケースがあるのです。本記事で、年俸制の正しい知識を身に付けていきましょう。

年俸制とは

 年俸制とは、年単位で契約して労働賃金を決める制度を指します。年俸制は、成果によって賃金が決定される場合が多いです。
このことから、別称、成果主義賃金制度とも呼ばれています。

 年俸の支払いについては、労働基準法第24条で「賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められています。
 そのため、年俸制は年俸額を12分割して支払われるケースが多いです。

「年俸制だから残業代を支払わなくてOK」ではない

 成果によって給与が決定されることが多いことから、年俸制は労働時間が関わっておらず、残業代とは無縁と捉えている企業も少なくありません。
企業によっては、以下のような言い分をすることがあります。

「うちは年俸制だから、一年間の給与は決まっている。だから、別途残業代を支払う必要はない」

しかし、「年俸制だから残業代を支払わなくてOK」ではありません。

年俸制は労働基準法が適用される

 というのも、年俸制は会社と労働者の間で雇用関係が成立するためです。雇用関係が結ばれている以上、労働基準法が適用されなければなりません。

労働基準法では「法定労働時間(1日8時間、1週40時間)以上の労働をした場合には、労働者に時間外割増賃金(残業代)を支給しなければならない」といった内容の規定がされています。
そのため、法定労働時間を超えた時間外労働をした場合には、残業代が発生する可能性が考えられます。

現に、過去の裁判例でも『年俸制を採用することによって、直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならない[大阪地判平成14年5月17日労働判例828号14頁]』(『https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07970.html』)と明記されています。
要するに、この判例では、「年俸制だから残業なしというのは理由にならない」と主張されています。

労働者を惑わせる事柄

 しかし、「年俸制は残業代が出ないのではないか」と労働者を惑わせる2つの事柄があります。それは「36協定」と「年俸に一定の残業代を含むケース」です。

36協定

 年俸制で残業代が出ない方の中には、労使間(労働者と会社の間)で36協定を結んでいるため、残業代が出ないと思っている方がいます。

 確かに36協定とは、法定労働時間を超えて労働出来るように、労使間で結ばれる協定を指します。しかし、「法定労働時間を超えて労働出来る」=「法定労働時間を超えて労働しても残業代は発生しない」ではありません。

→36協定についてはこちらで詳しく説明をしています。

  36協定が結ばれていたとしても、法定労働時間を超えた労働をした場合は、残業代は発生します。

年俸に一定の残業代を含むケース

 年俸に一定の残業代が含まれているケースでは、雇用契約書等に以下のような条件が明記されます。

「年俸には、ひと月あたり〇〇時間分の時間外労働手当を含む」
「年俸には、1年あたり〇日分の休日出勤手当を含む」
「年俸には、ひと月あたり〇万円分の時間外労働、休日出勤手当を含む」

 以上で挙げられている例のように、あらかじめ決められた時間内の残業であれば、残業代は発生しません。しかし、事前に決定された残業時間を超えるようであれば、別途残業代が支払われなければなりません。

残業代が出ない雇用形態

 これまでは年俸制でも残業代が発生する、という話をさせていただきましたが、一方で残業代が出ない年俸制もあります。主に、以下が挙げられます。

管理職

 役職等に就いている管理職の場合は、残業代が支払われない可能性があります。管理職の方は、労働基準法41条で定めている管理監督者に該当することが考えられるためです。

管理監督者は、働き方に裁量が認められていることから、労働基準法で定められている「法定労働時間以上の労働をした場合には、労働者に時間外割増賃金を支給しなければならない」が適用されません。

 但し、管理職の中には、管理監督者に該当しない方も存在します。そのような場合は、残業代が発生する可能性も考えられます。

→管理監督者に該当するかどうかは、こちらの記事でチェック出来ます。

裁量労働制

 裁量労働制を採用した年俸制の場合は、残業代が発生しないケースがあります。
 裁量労働制とは、時間で賃金を決めることに馴染まない、SE(システムエンジニア)やデザイナイー等の労働者に対し、実働時間に関わらず「労使協定(労働者と会社の間で取り決めをした内容を書面化したもの)を結んで合意した時間数を1日の労働時間とみなす」制度です。

この、あらかじめ決められた時間内の残業時間であれば、もちろん残業代は発生しないでしょう。
 但し、その時間を超えた労働をした場合は、残業代が発生する可能性が考えられます。

→裁量労働制についてはこちらに記事で詳しく説明をしています。

みなし残業制(固定残業代)

 みなし残業制とは、実際の労働時間に関わらず、事前に決定された時間分の“みなし残業代"が給与に含まれていることをいいます。別称、固定残業代と呼ばれることもあります。

みなし残業制では、例えば「年俸には1ヶ月●●時間、●万円分の残業代を含む」といった文言等が、就業規則や雇用契約書に明記されます。
 毎月の給与支給で前もって残業代が支給われているため、事前に決められた残業時間を超えないようであれば、残業代は発生しないでしょう。しかし、あらかじめ決められた残業時間を超える場合は、残業代が支払われる可能性があります。

→みなし残業制についてはこちらの記事で詳しく説明をしています。

みなし残業制と休日出勤手当

 また、みなし残業代は以下のように、事前に休日出勤手当が含まれているケースもあります。

「年俸には、●日分の休日出勤手当を含む」

 この際も、前項の残業時間と同様、実際にあらかじめ決められた日数分以内の休日出勤であれば、残業代は発生しないことが考えられます。但し、この日数を超えた休日出勤をした場合は、残業代が発生することは否定出来ません。

個人事業主

 残業代は、労働者を保護するために定められた労働基準法に基づいて発生します。したがって、個人事業主(自営業)には労働基準法が適用されません。
例えば、会社から仕事を請け負う業務委託で、会社と契約を結んでいる場合は、労働者ではなく、個人事業主と捉えられる可能性があります。その場合、たとえ法定労働時間を超える労働をしたとしても、残業代は発生しないでしょう。

年俸制の残業代の計算方法

PCと電卓
 では、年俸制の残業代の計算方法について触れていきます。

 残業代を算出するためには、まず年俸を12で割って基礎賃金(手当等を除外した労働賃金)を算出する必要があります。
 但し、賞与が支払われている場合は、支給方法によって基礎賃金に賞与を含むかどうかの計算方法が変わってきます。

年俸制と賞与

 というのも、基礎賃金は労働基準法37条で以下のように定められています。

家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

①別居手当
②子女教育手当
③住宅手当
④臨時に支払われる賃金
⑤1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

 賞与は、この中の「④臨時に支払われる賃金」「⑤1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当します。
 年俸制の場合、以下のように様々な方法で賞与が支給されています。

・年俸と賞与を足した額を12分割して毎月支払う
・年俸と賞与を足した額を16分割して毎月支払い、それだけでは支払いきれない16分の4は2分割し、年2回のボーナス月に賞与としてそれぞれ支給する(割り数は会社によって規定が異なる)
・年俸を12分割して毎月支払い、賞与は別で年数回支給する

 そのため、賞与の支払い方法によって、基礎賃金に賞与を含むかどうかが異なります。

毎月賞与が含まれる場合

 「年俸と賞与を足した額を12分割して毎月支払う」といったように、毎月の給与に賞与が含まれる年俸制の場合は、「④臨時に支払われる賃金」「⑤1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するとは言えないでしょう。
そのため、基礎賃金に賞与を含んだ形で基礎賃金が計算されるでしょう。

年に数回の賞与支給の場合

 「年俸と賞与を足した額を16分割して毎月支払い、それだけでは支払いきれない16分の4は2分割し、年2回のボーナス月に賞与としてそれぞれ支給する」「年俸を12分割して毎月支払い、賞与は別で年数回支給する」といったように、年に数回の賞与支給の場合は、「④臨時に支払われる賃金」「⑤1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当する可能性が考えらます。
よって、基礎賃金に賞与が含まないことが考えられます。

 以上のように、年俸制の残業代を計算する前に、賞与の支払い方法を確認しておきましょう。

→残業代の計算方法についてはこちらで詳しく説明をしています。

年俸制で未払いだった残業代を請求する方法

 法定労働時間を超えた労働を強いられている年俸制の方は、残業代の計算をすると未払いの残業代が多額であることに気付く方も少なくありません。
 もちろん、今までに支払われていなかった残業代を請求することは可能です。

 とはいえ、未払いの残業代を請求するためには、残業をした証拠が必要です。これは立証責任(確実な証拠で証明する責任)が請求者にあるためです。年俸制の場合、勤怠管理等で正確な労働時間を把握していないケースは少なくありません。
 そのような場合は、以下の列記したものも実労働時間を把握する証拠になり得ます。

  • 業務用メールの送受信履歴
  • 日記等の備忘録
  • 日報や週報
  • 勤怠表
  • 業務日誌
  • オフィスビルへの入館記録

 まずは、以上の証拠になり得るものを入手したうえで、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」を読んでみてください。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

まとめ

 会社から「残業代は出ない」と言われ、不当に残業代が支払われず長時間労働をしている年俸制の労働者も少なくありません。
ですが、年俸制で働いている全ての人に残業代が発生しないとは限りません。本記事でも触れている通り、残業代が支払われるケースもあります。

 もし、残業代が発生する年俸制であれば、残業代の請求を検討した方がよいでしょう。

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